このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

プロトタイプ

今日、戦闘で久々に右腕が「剥がれた」。割れたわけじゃない、剥がれる。それは腕を失ったものが新しい材料で腕を作った時に、接着が十分でない場合に外れてしまう現象に似ている。時々俺の身体で起こるそれは、恐らく俺の精神力に影響している。今日、月人の器には攫われた仲間の欠片があったから。動揺したのだろう。

「……俺も連れてってくれねぇかね」

既に俺の右腕は器の中にある。一人で戦闘に出てる以上、助けは期待してはならない。死のうとは思ってない。けれど、いつだって皆の最善でいたいと思っている。だから、攫われてもいいと思いながら、戦っていた。

「なにを諦めている!」
「え」
「これくらい、お前なら一瞬だろう!」

漆黒の髪が視界を遮る。横を見れば、悔しそうなでも誇らしそうな、いろんな感情をたたえたダイヤモンドの笑顔。また、俺は彼らに救われてしまった。霧散していく月人から、取り返した右腕を投げて寄越される。左手で受け取ると、滑らかな断面に当ててやった。そうすれば、元のようにくっつく。ルチル要らずの便利な体質だ。

「ありがとう、ボルツ」
「…………。」

むすっと睨みつける顔はなにか言いたげだ。言われる前に、俺は弁明した。

「諦めたわけではないさ。でも、この身体がもう一度月に行くなら、攫われた皆が戻るのが早くなるかもしれないだろ? 俺の身体は、皆の結晶で出来ているんだから 」

そう、俺の名前はインクィアメンタム。不純物だ。何故かだか知らないが、俺の身体は属性や硬度に関係なく、様々な鉱物をインクルージョンが結んでいる。その中にはきっと、攫われて帰ってこない奴らの結晶が混ざっている。……俺が攫われて砕かれてしまえば、元の持ち主のところへ帰れるかもしれない。そんな楽観的観測が、思考を澱ませることが多々あった。

「いつも言ってるだろう。皆が欠けた時は、俺を砕いて使ってくれって」
「……生産的じゃない。インクィア、お前は大事な戦力だ」

ボルツの、意思の強い視線が俺を射抜く。責め立てるような抗議の視線に、俺はそれ以上は語るのをやめた。

「僕達、ダイヤ属の大事な弟だ。そう簡単に月へ行かせてたまるか」

ボルツは、俺を弟と呼んでくれる。ダイヤ属だなんて、笑わせてくれる。ただ、俺を構成する宝石の中で一番多いのがイエローダイヤモンドである、というだけの話だ。俺が自嘲したのが分かったのか、またボルツの表情は険しくなる。

「悪かった、もう無茶はしないさ」
「……その言葉は聞き飽きた」

俺がいけないことを考えている時に、ボルツは必ず現れる。だから俺は毎度、約束する羽目になる。幾度となく破られる約束を。

「全く、聞き分けがなくて出来の悪い弟だ」

そう言ってボルツは去って行った。一部始終を見届けたダイヤが、にこやかに話しかけてきた。

「あなたのこと、あれでもとっても心配してるのよ。大好きなのね」
「……恋愛話は聞きたくないよ、ダイヤ」

輝かしいダイヤの光を浴びながら、ゆっくりと家に帰った。ああ、皆がいるから、皆を喜ばせたいのに。俺は不死の身体で生に縋り付いてしまう。
1/19ページ
スキ