I miss you

ジムに向かう途中
彩子は用事があると言って帰ってしまった。



だが、宮城には彩子の心中が手に取る様にわかる。



現場に立ち合うのはあまりにも忍びないのだろう。



あとはオレが全部うまくやるから…



立ち去る愛しい人の背中に任務の成功を誓う宮城。



古びたビルの1Fの窓からは晧々と灯りが漏れていた。



 「み、宮城さんっ」



いきなり流川に襟首を掴まれた。



 「痛…ってーよっバカ!!」

 「……やっぱり止そう」

 「ここまで来て、なに言ってやがる!!!」

 「…………」



自分の叱咤にうっすら頬を染め俯く後輩に
妙な感情が芽生えそうになるのを必死で否定する宮城。



危うくミイラ取りにがミイラになるところだ。



全てを振り払うように宮城は勢いよくジムのドアを開けた。



途端に2人はサンドバッグを叩く音と汗臭い熱気に包まれる。



 「こんばんは~~
 見学ですかぁ?」



スタッフらしき大柄な男が甚だフレンドリーに近付いて来た。



え?こんな乗りでいいのかよっ!?



突っ込みたい気持ち抑え、宮城は流川の腕を突く。



 (どいつだ?)



目で訊くと、流川の呼吸はすでに荒くなり
激しく上気していた。



 (こんなに接近したのは初めてだ…)



後輩は目で返す。



そして「あそこだ」とばかりにすぐに視線を移した。



落ち着け、オレ!!
アヤちゃんの笑顔の為に!!



流川の熱い瞳は部屋の隅に注がれている。



その視線の先を宮城は恐る恐る追った。



 「…………え?」



思わず流川の顔を見上げる。



 「…………マジかよ」




 「………あぁ」



流川がゆっくりと頷く。



2人の視線の先では
一匹の黒猫が大きく伸びをしていた。



 I ミス you ……



直後、宮城の全身が激しい怒りと脱力感に包まれたのは言うまでもなかった。


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