春 ~Spring~
私はがむしゃらに曲を作り始めた。
無我夢中で歌を歌い続けた。
頭の中は音楽でいっぱいで授業はそっちのけ。
食事すらとることも忘れて没頭した。
…ずっと近くにいれると思っていた。
ずっと私の歌を聴いてもらえると思っていた。
彼のバスケをずっと見ていられると思っていた。
でも…
でも、きっと彼は自分の目標を達成し、夢であるアメリカに行くだろう。
そうしたらきっとあのような時間はなくなってしまう。
応援したい気持ちと、寂し気持ちがぶつかり合っている。
そんな時に限って、私の頭からは色んな音楽が次々と生まれてくる。
…皮肉以外のなんでもなかった。
「お前、痩せたな」
ライブのあと、ライブハウスの建物の裏で二人並んでしゃがみこむ。
夜の9時を回り、外の明かりは街灯だけになっている。
冷房がガンガン効いた室内とは違い、外はムッとする暑さでうだるようだ。
その頃、バンド活動も活発になり、小さなライブイベントを月に1・2回こなしていた。
週に1回か2回バンド練習をしてその他の時は曲のことで頭がいっぱい。
彼との連絡は相変わらずあんまりなかったけれど、こうしてライブのチケットを送ると見に来てくれる。
「ちゃんと食ってるのか?」
「…あんまり」
このところバンドの事で頭いっぱいで、食べることすら面倒くさくなっていた私の体重は5キロ程落ちていた。
「ただでさえ細いのに。ちゃんと食え」
「うん…」
なんでこんなにバンド活動に一生懸命なんだろう。
なんで私はこれほどまでに頭がいっぱいになるのだろう。
なぜ…
「言いたい事あるんなら言えば?」
「え?」
「いや、俺が聞きたいのかも…」
「…?」
「…おめーさ、前に俺の夢の話聞いただろ?」
「うん…アメリカに行くって…」
そうだ…
私、あの時から何故だか知らないけど音楽に没頭するようになったんだ…
そしたら思いの外好調で、どんどんはまっていって…
「俺、おめーのちゃんとした夢、聞いてないんだけど」
「夢?」
「そ。夢」
「でも、あの時言ったよ?」
「そうじゃなくて」
「なに?よくわからないよ」
二人で江ノ島の展望台に昇った日、私は確かに言った。
『もっと沢山歌いたい』と。
「俺はさ…」
いつもあまり喋らない彼の口数が多い。
でも私はそんな事にすら気づかないで彼の話を聞いていた。
「俺は、バスケが好きだからアメリカに行こうと思ってる」
「……」
そうだね。
よっぽど好きじゃなきゃ日本を離れる決心はつかないだろう。
なんて強い意志なんだろう…
「お前は?」
「え?」
「お前はどうしてそんなに歌いたいんだ?」
「どうしてって、そりゃぁ…」
言いかけたところで私は頭から冷水をかぶせられたように目を覚ます。
どうして私がこれほどまでに音楽に没頭しているのか。
最初は目の前の彼と離れ離れになるという悲しみから逃れるためだった。
何かしていればその間だけ悲しみを忘れられる。
だけど、
だけど、それだけじゃなかった。
私自身、その理由の一番の根っこの部分を忘れていた。
自分自身を追い込んで追い詰めて、一番大切なことを忘れていた。
「どうした?」
隣に座る彼がそっと話しかける。
今、ふと思ったけれど、この人はとても優しい人なんじゃないか。
言葉はぶっきらぼうだけど、本当は人の心がよくわかる人なんじゃないか。
今もこうして、私自身で答えを出させようと促している。
もしかしたら本人にそのつもりはないかもしれない。
だけど。
「私ね…歌が好き…」
「……」
「歌が、好き。だから、歌いたい…」
「…そっか」
私は知らず知らずのうちに涙を流していた。
なぜだろう。
なぜかはわからなかった。
ポンポンと軽く叩かれた肩から彼の優しさが伝わってきた。
夏 ~summer~
無我夢中で歌を歌い続けた。
頭の中は音楽でいっぱいで授業はそっちのけ。
食事すらとることも忘れて没頭した。
…ずっと近くにいれると思っていた。
ずっと私の歌を聴いてもらえると思っていた。
彼のバスケをずっと見ていられると思っていた。
でも…
でも、きっと彼は自分の目標を達成し、夢であるアメリカに行くだろう。
そうしたらきっとあのような時間はなくなってしまう。
応援したい気持ちと、寂し気持ちがぶつかり合っている。
そんな時に限って、私の頭からは色んな音楽が次々と生まれてくる。
…皮肉以外のなんでもなかった。
「お前、痩せたな」
ライブのあと、ライブハウスの建物の裏で二人並んでしゃがみこむ。
夜の9時を回り、外の明かりは街灯だけになっている。
冷房がガンガン効いた室内とは違い、外はムッとする暑さでうだるようだ。
その頃、バンド活動も活発になり、小さなライブイベントを月に1・2回こなしていた。
週に1回か2回バンド練習をしてその他の時は曲のことで頭がいっぱい。
彼との連絡は相変わらずあんまりなかったけれど、こうしてライブのチケットを送ると見に来てくれる。
「ちゃんと食ってるのか?」
「…あんまり」
このところバンドの事で頭いっぱいで、食べることすら面倒くさくなっていた私の体重は5キロ程落ちていた。
「ただでさえ細いのに。ちゃんと食え」
「うん…」
なんでこんなにバンド活動に一生懸命なんだろう。
なんで私はこれほどまでに頭がいっぱいになるのだろう。
なぜ…
「言いたい事あるんなら言えば?」
「え?」
「いや、俺が聞きたいのかも…」
「…?」
「…おめーさ、前に俺の夢の話聞いただろ?」
「うん…アメリカに行くって…」
そうだ…
私、あの時から何故だか知らないけど音楽に没頭するようになったんだ…
そしたら思いの外好調で、どんどんはまっていって…
「俺、おめーのちゃんとした夢、聞いてないんだけど」
「夢?」
「そ。夢」
「でも、あの時言ったよ?」
「そうじゃなくて」
「なに?よくわからないよ」
二人で江ノ島の展望台に昇った日、私は確かに言った。
『もっと沢山歌いたい』と。
「俺はさ…」
いつもあまり喋らない彼の口数が多い。
でも私はそんな事にすら気づかないで彼の話を聞いていた。
「俺は、バスケが好きだからアメリカに行こうと思ってる」
「……」
そうだね。
よっぽど好きじゃなきゃ日本を離れる決心はつかないだろう。
なんて強い意志なんだろう…
「お前は?」
「え?」
「お前はどうしてそんなに歌いたいんだ?」
「どうしてって、そりゃぁ…」
言いかけたところで私は頭から冷水をかぶせられたように目を覚ます。
どうして私がこれほどまでに音楽に没頭しているのか。
最初は目の前の彼と離れ離れになるという悲しみから逃れるためだった。
何かしていればその間だけ悲しみを忘れられる。
だけど、
だけど、それだけじゃなかった。
私自身、その理由の一番の根っこの部分を忘れていた。
自分自身を追い込んで追い詰めて、一番大切なことを忘れていた。
「どうした?」
隣に座る彼がそっと話しかける。
今、ふと思ったけれど、この人はとても優しい人なんじゃないか。
言葉はぶっきらぼうだけど、本当は人の心がよくわかる人なんじゃないか。
今もこうして、私自身で答えを出させようと促している。
もしかしたら本人にそのつもりはないかもしれない。
だけど。
「私ね…歌が好き…」
「……」
「歌が、好き。だから、歌いたい…」
「…そっか」
私は知らず知らずのうちに涙を流していた。
なぜだろう。
なぜかはわからなかった。
ポンポンと軽く叩かれた肩から彼の優しさが伝わってきた。
夏 ~summer~