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春 ~Spring~

最近、調子がいい。



色んなフレーズがひっきりなしに浮かんでくる。



街を歩いていても、先生の話を聞いていても、ふとしたきっかけで、メロディと詩が次々と出てくる。



浮かんだフレーズをすぐ書き留められるように、カバンにはいつもノートとペンを入れておくようになった。



そして、すっかり曲作りの場所となったあの海岸でノートをまとめる。



海を見ながらだと浮かんできたカケラが上手い具合にジグソーパズルのように一つ一つ繋がって、キレイに完成するのが気持ちいい。



今日も砂浜に座り込んで一心不乱にノートにペンを走らせる。



日差しはあるけれど、夏の様なギラギラとした日差しはもうない。


海風が少し肌寒い。






「ベンキョーか?」



「お、また会ったね。今日もランニング?」



「おー。体力付けたいから」



「毎日どこまで走ってるの?」



「あの島の反対側。すごく小さく見えるまで」



「…すっごいスタミナ」



「…どあほう」





彼が走る先には一体何が見えるのだろう。



今度一緒に走ってみようか。



いや、私は途中でバテてしまいそうだからやめておこうかな。





「こんなところでワザワザベンキョーか?」



「あぁ、これね、曲作り。最終的にはみんなで練り直すんだけど…歌うんだ、これ」



「オマエ……歌えんのか?」



「何か異論でも?」



「ゴザイマセン」



「これでもライブハウスでライブやってるんだよ。…色んなバンドと合同だけど。音楽興味ある?今度ライブやるんだ。チケットあげるよ、はい」



そう言って私はノルマのチケットを鞄からとりだし、手渡した。




「時間が合えば、行く」






ランニングをしているはずの彼は私を見かけるなり足を止めて話し掛けてくれる。



邪魔にならないか少し心配になるが、口下手な彼のそんな行動が嬉しかった。



夢を語っても決して笑わない。



夢を持つ者通し、その夢を語るというのは真剣な気持ちであることをお互い理解しているから。



彼はバスケ。

私は歌。



もっと上手くなりたい。



その為に、ここにいる。





「じゃ、続き、走ってくる」



「いってらっしゃい」



手を少し振りかけたところで彼は何か思い出して振り返る。



「あ。」



「なに?」



「今度お前も試合見に来い」



「いつ?どこであるの?っていうか見に行っていいの?」



急なお誘いに胸が高鳴り、思わず早口になってしまう。



「練習試合だけど、強いところとやる。来月の第1土曜日、陵南の体育館。こっから近いだろ。見に来い」



「わかった。次の日、今渡したチケット、私のライブだから、見に来い」



「…わかった。見に行く」





そう言ってランニングを再開した彼の姿がどんどん小さくなっていく。



彼の走る姿をずっと見守る。



どこまでも続く海岸線を走るというのはどんな気持ちだろう。



夢に向かって走るあなた。



ゴールのない海岸線を、何を思って走るのだろう。



心臓がきゅんと痛む。



スケジュール帳を取り出して、来月の第1土曜日に予定を書き込む。



「今日もいい曲かけそう…」



私は海岸に座りなおして広い海をずっと眺めた。




秋~Autumn~
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