春 ~Spring~
「全国大会?」
「……あぁ」
浜辺をボンヤリ歩く私と熱心に走る彼。
自然と顔見知りになり、いつの日からか会話するようになった。
お互い名乗はなかったのは、特に必要なかったから。
いつもこうして砂浜に座って海を眺めながら会話する。
約束していた訳じゃないけど。
「全国行くなんて、凄いね…」
「…別に。」
「素直に『ありがとう』って言えばいいのに」
「全国にはもっと上がいるかも」
「へぇ…」
彼は高校でバスケをやっている。
彼のいる高校が全国大会に初出場するという。
それだけでも喜ばしい事なのに、本人は物足りないようでそれを認めてくれない。
『自分よりもっと上がいる』という気持ちは私もよくわかる。
「それ、わかるかも。いい曲が浮かんでも、『他の人はもっといい曲作ってる』って思っちゃうんだよね」
「それはお前が自信がないだけ」
「……言ってくれるね」
ズバズバと言いたい事を言われるが、下手に慰められるよりずっといい。
「そうだね、自信持って作ったらそんな事考えないよね…」
「………バスケも」
「ん?」
「バスケも一緒」
「……………」
彼のプレイは見たことないけれど、なんとなく彼のプレイスタイルが見えた気がする。
自分の持つ技術を素直に発揮するプレイが。
海からの潮風が気持ちいい。
二人で波の音を聴きながらボンヤリする。
目の前には果てしなく広がる海。
日差しは強いけれど、その分波がキラキラと反射してとても綺麗。
この時間と、この風景が心地よい。
二人で見ている同じ風景。
夏~summer~