差しのべる彼のセリフ



アイツに振られてから、毎朝のようにずっと一人で屋上にいる。


そして、上からアイツが登校するのを眺めている。


私は一人でここにきて、アイツを見ている。


「私は一人で立っていられるんだ」


そういう思いをアイツに見せ付けるために。




一人で立っているつもりだったんだけど、気づけばいつの間にもう一人屋上にやってくる。



「また…水戸くんか」


「ひでぇな、そんな言い方しなくてもいいんじゃない?」


「だって、いつの間にかいるし…」


「俺はここに来たいから来てんの。お前だってそうだろ?」


「そりゃ、そうだけど…」



水戸君はさも当然かの様に私の隣に立つ。


フェンスに肘をついて、満足気に下を眺めている。


水戸くんの目には何が見えるんだろうか。


自分はどす黒い目で下を見下ろしてるのに、水戸くんはどうして見守るように見ていられるんだろう。



「水戸くん、さ…」


二人で黙っている時間が恥ずかしくて水戸くんに話しかける。



「なに?」


「何でも話していいって言ってたよね?」


「ん?あぁ、あの時の。言ったよ」



一瞬忘れていたような素振りを見せたけど、すぐに思い出して私に笑いかける。



「なに?俺に話す気になったか?」


「うん…よくわからないけど、誰かに言いたくて」



そこからの私は随分長い時間水戸くんに何か話していたような気がする。


元彼のこと、元彼に言われた事、そして…


自分は相手にとってうっとおしい存在でしかないのかもしれない、とか、


本当は自分はそういう人間じゃなくて一人でも大丈夫って言うところを見せ付けてやりたいとか…


あらゆる悲しみ、悔しさ、そして愚痴を吐き出していた。


その間の水戸くんの顔は見れなかった。


どんな顔をしながら私を見ていたのか、私はそれを知らずに。


水戸くんは、ただ黙って聞いていた。



「…あのさ」


「…え?」



水戸くんの静かな声に、私の熱は一気に冷める。


その時、初めて水戸くんの顔をしっかり見たような気がする。


真剣な顔つきは、少し怒っているように見えて、私はその静かな迫力に黙り込んでしまう。



「お前はさ、誰に向かって話してた?」


「え、水戸くんにでしょ?」


「さっきから聞いてりゃ『一人で平気』とか『誰かに頼らなくても一人で大丈夫』とか…お前さ、いい加減、『一人』じゃないって気付けよ」


「……」


「俺に向かって喋ってたんだろ?…『一人』じゃねーじゃん…」




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