海南大附属高等学校籠球部!
文化祭当日。
天気は雲ひとつない秋晴れで、秋といえどもその日差しはまだ強く、少し汗ばむほどであった。
文化祭開催時間までまだ余裕はあるというのに、名門海南大附属高校の文化祭を一目見ようと、校門前は多くの人で賑わっていた。
生徒もまた、それと同様、いや、それ以上に興奮していた。
そして、バスケ部体育館では部員たちが普段の練習には大変似つかわしくない装飾を壁に施していく。
折り紙で作った輪っか、色紙で作った花。
(なんで俺たち造花なんて作ってるんだろう…)
神は心の隅っこでそう思いながら丁寧に花の形を整える。
「おーい!神!そこの花飾りの位置、ちょっと直してくれ!」
「はい、牧さん」
カラフルになっていく様子を牧が全体を眺めながら、時には指示を出している。
皆(約一名除く)、盛り上がるよう必死だった。
そこにメガネの位置を直しながら宮益が少し慌てた様子で牧の背中をポンと叩く。
「なぁ、牧」
「あぁ、宮益か、どうした」
「信長、見なかったか?さっきから探してるんだけど…教室にもいなくてさ」
「そういえば今日は一度も見てないな」
いつもならいの一番に「牧さぁーーーん!!」と犬の様に飛びついてきて、いつも分の周りをついて回っているはずの清田が今日は全く絡んでこないか、一度も姿を見せていない。
牧はぐるりと体育館を見回したが、宮益の言うとおり、その姿はなかった。
「アイツ、ヨーヨー担当だからもう来てないといけないんだぞ。今から作っておかないと間に合わないのに」
宮益がソワソワと体育館の時計を見上げる。
あと一時間程で文化祭開始、一般客も入ってっくる。
ヨーヨーを用意しておかないと間に合わない時間だ。
「ったく、なぁにやってるんだ、あいつは…」
牧は深々とため息を吐く。
清田にヨーヨー作りを任せた俺が馬鹿だったのか、清田の根性が足りなかったのが悪いのか、それとも、その足りない根性を見抜けなかった自分の見る目がなかったのか。
そんな思いが牧の中を駆け巡る。
「ったく…あのバカが…」
牧は再び深いため息を吐く。
「大丈夫ですよ、牧さん」
「…神!」
「アイツ、頑張ってましたよ。不器用ながらも牧さんに…みんなに認めてもらえるように必死で作ってましたよ。俺、見てましたから。アイツはやる時はやるヤツですよ。そうじゃないですか?牧さん」
「ふ…そうだな、アイツは突っ走ったら止まらんヤツだったな」
清田はやる時はやる男。そういう男だ。
入部した時からがむしゃらに突っ走ってきた清田の姿を思い出して、牧は少し落ち着く事ができた。
「牧さぁーーーーん!!!」
入口から体育館に大きな声が響き渡る。
「清田!」
呼ぶと同時に清田が牧の下に速攻で走り込む。
ずっと走ってきたのか息は完全に上がっていて、体中汗びっしょりになっていた。
「すいません!牧さん!遅くなって…!」
「清田!今何時だと思っているんだ!準備の時間はとっくに始まってるんだぞ!」
「す、すいません…牧さん…」
「集合時間は何時だと思ってるんだ?」
「す、すいません…」
「ったく、お前にはヨーヨーの準備を頼んであるんだぞ、お前がいなかったら困るのはわかってるだろうが」
キャプテンとしての責任感からか、自然と清田への言葉が鋭くなってしまう。
牧は清田の脳天に拳骨の鉄槌を落とす衝動を必死に堪えていた。
鉄槌を食らわせたところで何も進まない。
だからといって、出し物であるヨーヨーがなければ出し物の意味がない。
やり場のない怒りと焦りが体の中を駆け巡る。
牧のその感情を読み取った清田が恐る恐る話しかける。
「あの…」
「なんだ、清田」
(こ、こえぇ!!牧さん完全に怒ってる!)
鉄槌を覚悟して清田は自然と涙目になる。
「あ、あの、遅刻して本当にすいません…あの、昨日必死になってヨーヨー作ってたら真夜中になってて、それで、気づいたら朝になってて…その…本当にすいませんでした!!!」
清田はありったけの力を込めて牧に頭を下げる。さ
(ん?あれは…)
ふと体育館入り口を見た神は何かに気づいた。
そしてその「何か」が何なのかいち早く察した。
「牧さん、やっぱり清田はやる時はやる男ですよ」
ちょいちょい、と体育館入り口を指差した先には大きな荷物。
(さすが神さん!!!わかってくれる!!!)
神の発言の意味するところをこれまた瞬時に理解した清田は先ほどの涙目はなんのその、ぱっと口元に笑みを浮かべて仁王立ちする。
「牧さん!!!心配ご無用!!この大型ルーキー清田信長、遅れはしたものの、抜かりは全くないっすよ!!出し物の要のヨーヨーは完璧ばっちり用意してきました!!!」
入り口にあった荷物に気づいた部員が中を確認すると清田の言葉通り、完璧なまでにヨーヨーが詰まっていた。
「キャプテン!すごい数のヨーヨーが!!」
「…なに??」
牧が思わず駆け寄って見ると見事に大きさの揃ったヨーヨーが並んでいた。
「大きさもさる事ながら形も歪むことなくまん丸に仕上げましたよ!!ちょっと空気を入れすぎると涙型になるし、中の水の量も多すぎると重くてダレるし少なくても弾まないし苦心しましたよ。」
清田は今までの苦労を噛み締めるかのごとく、うんうんとうなずいた後にパッと牧の前で再び深々と頭を下げる。
「牧さん、遅れてすみませんでした…。その…これで許してもらえないですか?」
チラリと顔色を伺うとそこには試合前の誰も寄せ付けない異様な空気を纏った牧がいた。
(ひえええええ!!!やっぱりまだ怒ってる!!!)
やはり遅刻しては意味がなかったか!!!
牧に喜んでもらえるよう頑張っても遅刻してしまえば無意味!!!
「清田…」
牧の低い声が一層低く清田の耳に届く。
(もう終わりだ!!)
覚悟を決めた瞬間だった。
…ポン
「よくやったな」
言葉と同時に牧の手が清田の頭に触れる。
「遅刻はいかんがこれだけの数、これだけ完璧に仕上げた。頑張ったな、清田」
「…!!!」
「やはりお前に任せてよかったな」
「ま、牧さん…」
清田の涙腺は崩壊寸前。
「清田、遅刻のバツとして文化祭終わったら体育館20周な」
「大丈夫っすよ!牧さん!この清田信長のスタミナ、見てやってください!!!」
「ったく、調子に乗りやがって」
体育館に笑い声が響いた。
「さぁ!!!最後の仕上げだ!!!お前ら、急いで準備再開だ!!!」
「おお!!!」
牧の一声と共に部員たちは再び文化祭の準備に取り掛かった。
あとは文化祭開始を待つのみ…
「うーん、面白くなってきたなぁ」
神はヨーヨーをつきながら飾りつけ作業の続きに取り掛かった。
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※バスケ部の出し物はヨーヨーです。
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天気は雲ひとつない秋晴れで、秋といえどもその日差しはまだ強く、少し汗ばむほどであった。
文化祭開催時間までまだ余裕はあるというのに、名門海南大附属高校の文化祭を一目見ようと、校門前は多くの人で賑わっていた。
生徒もまた、それと同様、いや、それ以上に興奮していた。
そして、バスケ部体育館では部員たちが普段の練習には大変似つかわしくない装飾を壁に施していく。
折り紙で作った輪っか、色紙で作った花。
(なんで俺たち造花なんて作ってるんだろう…)
神は心の隅っこでそう思いながら丁寧に花の形を整える。
「おーい!神!そこの花飾りの位置、ちょっと直してくれ!」
「はい、牧さん」
カラフルになっていく様子を牧が全体を眺めながら、時には指示を出している。
皆(約一名除く)、盛り上がるよう必死だった。
そこにメガネの位置を直しながら宮益が少し慌てた様子で牧の背中をポンと叩く。
「なぁ、牧」
「あぁ、宮益か、どうした」
「信長、見なかったか?さっきから探してるんだけど…教室にもいなくてさ」
「そういえば今日は一度も見てないな」
いつもならいの一番に「牧さぁーーーん!!」と犬の様に飛びついてきて、いつも分の周りをついて回っているはずの清田が今日は全く絡んでこないか、一度も姿を見せていない。
牧はぐるりと体育館を見回したが、宮益の言うとおり、その姿はなかった。
「アイツ、ヨーヨー担当だからもう来てないといけないんだぞ。今から作っておかないと間に合わないのに」
宮益がソワソワと体育館の時計を見上げる。
あと一時間程で文化祭開始、一般客も入ってっくる。
ヨーヨーを用意しておかないと間に合わない時間だ。
「ったく、なぁにやってるんだ、あいつは…」
牧は深々とため息を吐く。
清田にヨーヨー作りを任せた俺が馬鹿だったのか、清田の根性が足りなかったのが悪いのか、それとも、その足りない根性を見抜けなかった自分の見る目がなかったのか。
そんな思いが牧の中を駆け巡る。
「ったく…あのバカが…」
牧は再び深いため息を吐く。
「大丈夫ですよ、牧さん」
「…神!」
「アイツ、頑張ってましたよ。不器用ながらも牧さんに…みんなに認めてもらえるように必死で作ってましたよ。俺、見てましたから。アイツはやる時はやるヤツですよ。そうじゃないですか?牧さん」
「ふ…そうだな、アイツは突っ走ったら止まらんヤツだったな」
清田はやる時はやる男。そういう男だ。
入部した時からがむしゃらに突っ走ってきた清田の姿を思い出して、牧は少し落ち着く事ができた。
「牧さぁーーーーん!!!」
入口から体育館に大きな声が響き渡る。
「清田!」
呼ぶと同時に清田が牧の下に速攻で走り込む。
ずっと走ってきたのか息は完全に上がっていて、体中汗びっしょりになっていた。
「すいません!牧さん!遅くなって…!」
「清田!今何時だと思っているんだ!準備の時間はとっくに始まってるんだぞ!」
「す、すいません…牧さん…」
「集合時間は何時だと思ってるんだ?」
「す、すいません…」
「ったく、お前にはヨーヨーの準備を頼んであるんだぞ、お前がいなかったら困るのはわかってるだろうが」
キャプテンとしての責任感からか、自然と清田への言葉が鋭くなってしまう。
牧は清田の脳天に拳骨の鉄槌を落とす衝動を必死に堪えていた。
鉄槌を食らわせたところで何も進まない。
だからといって、出し物であるヨーヨーがなければ出し物の意味がない。
やり場のない怒りと焦りが体の中を駆け巡る。
牧のその感情を読み取った清田が恐る恐る話しかける。
「あの…」
「なんだ、清田」
(こ、こえぇ!!牧さん完全に怒ってる!)
鉄槌を覚悟して清田は自然と涙目になる。
「あ、あの、遅刻して本当にすいません…あの、昨日必死になってヨーヨー作ってたら真夜中になってて、それで、気づいたら朝になってて…その…本当にすいませんでした!!!」
清田はありったけの力を込めて牧に頭を下げる。さ
(ん?あれは…)
ふと体育館入り口を見た神は何かに気づいた。
そしてその「何か」が何なのかいち早く察した。
「牧さん、やっぱり清田はやる時はやる男ですよ」
ちょいちょい、と体育館入り口を指差した先には大きな荷物。
(さすが神さん!!!わかってくれる!!!)
神の発言の意味するところをこれまた瞬時に理解した清田は先ほどの涙目はなんのその、ぱっと口元に笑みを浮かべて仁王立ちする。
「牧さん!!!心配ご無用!!この大型ルーキー清田信長、遅れはしたものの、抜かりは全くないっすよ!!出し物の要のヨーヨーは完璧ばっちり用意してきました!!!」
入り口にあった荷物に気づいた部員が中を確認すると清田の言葉通り、完璧なまでにヨーヨーが詰まっていた。
「キャプテン!すごい数のヨーヨーが!!」
「…なに??」
牧が思わず駆け寄って見ると見事に大きさの揃ったヨーヨーが並んでいた。
「大きさもさる事ながら形も歪むことなくまん丸に仕上げましたよ!!ちょっと空気を入れすぎると涙型になるし、中の水の量も多すぎると重くてダレるし少なくても弾まないし苦心しましたよ。」
清田は今までの苦労を噛み締めるかのごとく、うんうんとうなずいた後にパッと牧の前で再び深々と頭を下げる。
「牧さん、遅れてすみませんでした…。その…これで許してもらえないですか?」
チラリと顔色を伺うとそこには試合前の誰も寄せ付けない異様な空気を纏った牧がいた。
(ひえええええ!!!やっぱりまだ怒ってる!!!)
やはり遅刻しては意味がなかったか!!!
牧に喜んでもらえるよう頑張っても遅刻してしまえば無意味!!!
「清田…」
牧の低い声が一層低く清田の耳に届く。
(もう終わりだ!!)
覚悟を決めた瞬間だった。
…ポン
「よくやったな」
言葉と同時に牧の手が清田の頭に触れる。
「遅刻はいかんがこれだけの数、これだけ完璧に仕上げた。頑張ったな、清田」
「…!!!」
「やはりお前に任せてよかったな」
「ま、牧さん…」
清田の涙腺は崩壊寸前。
「清田、遅刻のバツとして文化祭終わったら体育館20周な」
「大丈夫っすよ!牧さん!この清田信長のスタミナ、見てやってください!!!」
「ったく、調子に乗りやがって」
体育館に笑い声が響いた。
「さぁ!!!最後の仕上げだ!!!お前ら、急いで準備再開だ!!!」
「おお!!!」
牧の一声と共に部員たちは再び文化祭の準備に取り掛かった。
あとは文化祭開始を待つのみ…
「うーん、面白くなってきたなぁ」
神はヨーヨーをつきながら飾りつけ作業の続きに取り掛かった。
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※バスケ部の出し物はヨーヨーです。
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