海南大附属高等学校籠球部!
極めろ!極めるんだ!清田っ!
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清田の心は一気に燃え上がった。
しかし…
「俺って結構安直かも…」
練習後、清田は大量のヨーヨーを前に一人体育館の隅っこでたたずんでいた。
「いくらバスケ部の命運がこの清田信長の手にかかっているとはいえ、俺には荷が重過ぎるぜ…」
バケツに水を入れ、ヨーヨーの箱と一緒に入っていた空気入れを手に取る。
その空気入れは小学校の理科の実験で「空気鉄砲」か何かで使った事のある、大きな注射器の様な形のもので、少し懐かしさを感じた。
空気入れに少し水をいれてから先端にヨーヨーを取り付ける。
ヨーヨーが取れないように手で押さえながら、空気を押し込むようにして空気を入れる。
丸くヨーヨーを膨らませたら、それに取り付けるゴムと一緒にプラスチックのクリップで栓をする。
これでようやく一つ完成。
「骨が折れる…」
一つ作るのに1分はかからないものの、大量にあると話は違う。
作っても作っても終わりは見えなそうだ。
文化祭前日に少しヨーヨーを用意しておくとはいえ、その殆どは当日に作る。
想像しただけで気が遠くなる。
しかも、全ての作業がうまくいくわけではなく。
ちょっと気を抜くと空気を入れている途中でヨーヨーが空気入れから取れてしまったり、空気を入れたとしてもちょっと手を緩めればヨーヨーの空気と水が一緒に飛び出してしまう。
空気だけの風船と違って、水と一緒に入った風船は、それが水鉄砲のように風船から水が吹き出る。
「しまった!」
と思ったと同時に清田の顔に水が噴射される。
「うわっぷ!!」
水をかけられたしぼんだヨーヨーを恨めしげに見つめながら清田は顔を拭う。
静かな体育館の隅で、作られた僅かな不恰好なヨーヨーと出番を待つ大量のヨーヨーが立ちふさがる。
誰もいないフロアは毎日の練習とは打って変わって何も音は聞こえてこなかった。
地獄のような練習がここで行われているのが信じられないくらいに。
「あー…くそっ!」
清田は全て投げ打って体育館で一人大の字になって寝そべった。
何度も襲うめげる気持ちを、神の「バスケ部の命運は信長にかかっているんだよ」という言葉で自分を燃え上がらせてきたが、さっきかぶった水のせいで僅かに残っていた火種が消えてしまった。
練習後の作業は疲労感を倍増させた。
(疲れた…このまま寝ちまおうかな…)
同時に襲った睡魔に身を任せようと思った。
まぶたが自然に下がっていく…
「なんだ、電気ついてると思ったら信長だったのか」
ガラリと扉が開く音と共に、部活の時とは違うTシャツを着た神が体育館に入ってきた。
「…神さん!」
突然の来訪者に清田は飛び上がる。
「もうみんな帰ったよ。…あぁ、これを作ってたのか」
神は水の入ったヨーヨーを手に取ってしゃがみこむ。
「一個一個これで作るの?大変そうだね」
次にバケツに浮かぶ空気入れを手にし、神は慣れた手つきでヨーヨーを一つ作った。
あまりにもごく自然にヨーヨーを作る神に、清田は目を奪われた。
「へぇ、初めて作ってみたけど結構楽しいね」
綺麗な球体のヨーヨーを少し眺めてから、バケツに浮かべる。
そして何も言わずに次のヨーヨーに手を触れる。
(神さん、もしかして…)
もしかして、自分を手伝いにきてくれたのかもしれない。
でなきゃわざわざ体育館には来ないし…、現にこうしてヨーヨーを作ってくれている。
清田の胸に何か溢れるような感情が、どんどん湧き上がってくる。
「神さん…もしかして手伝いにきてくれたんすか…?」
「え?」
「だからこうしてわざわざ来て…俺に色々コツ、教えてください!」
「…ヤだよ」
キョトンとあっさり断る神を見て、清田は慌てる。
「あっ…そーっすよね。コツは自分で掴まないとダメっすよね」
「だから、ヤだよ。これは信長の仕事だろ?」
「へ?」
「コレは信長がやるの」
ニコニコとヨーヨーを指差しながら神は立ち上がる。
「え、神さん、手伝いに来てくれたんじゃ…」
「手伝う?そんなことしないよ。俺は自主錬にきたんだよ」
神はにっこりと笑いながらリングを指差す。
「時間がもったいないからね。ちょっとそこどいて。ボール出すから」
清田の座る真後ろには用具室の扉があった
神は扉を開けてバスケットボールが入ったかごを用具室から出す。
神は一日500本のシューティングを欠かしたことはない…!
(「時間がもったいない」って、神さん、そりゃないっすよ…)
『清田の手伝いは自分にとっては時間の無駄』と言われたような気がして清田はガックリとうなだれる。
そんな清田を尻目に神は整ったフォームで次々を3Pシュートを決めていく。
「信長」
「?」
神はシュートの手を止めて清田に話しかける。
「ほら、こうして付き合ってやってるんだから清田も早く練習しなよ」
「えっ?」
「極めるんだろ?俺が500本決めるまで付き合ってやるから。その間に信長もヨーヨー作り、頑張れよ」
「…!神さん!!」
神が直接清田に手を貸さないとはいえ、同じ空間にいてくれるという。
神にとってはシュート練習は毎日の事でそこに清田がいてもなんの変わりはないかもしれない。
でも、清田はその神の「気持ち」が嬉しかった。
(よし!やるか!神さんも応援してくれてる。それに、ここでめげたら牧さんや宮さんに申し訳ない!)
清田の目がギラリと光る。
神はそんな清田を見て、再びシュート練習を始めた。
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清田の心は一気に燃え上がった。
しかし…
「俺って結構安直かも…」
練習後、清田は大量のヨーヨーを前に一人体育館の隅っこでたたずんでいた。
「いくらバスケ部の命運がこの清田信長の手にかかっているとはいえ、俺には荷が重過ぎるぜ…」
バケツに水を入れ、ヨーヨーの箱と一緒に入っていた空気入れを手に取る。
その空気入れは小学校の理科の実験で「空気鉄砲」か何かで使った事のある、大きな注射器の様な形のもので、少し懐かしさを感じた。
空気入れに少し水をいれてから先端にヨーヨーを取り付ける。
ヨーヨーが取れないように手で押さえながら、空気を押し込むようにして空気を入れる。
丸くヨーヨーを膨らませたら、それに取り付けるゴムと一緒にプラスチックのクリップで栓をする。
これでようやく一つ完成。
「骨が折れる…」
一つ作るのに1分はかからないものの、大量にあると話は違う。
作っても作っても終わりは見えなそうだ。
文化祭前日に少しヨーヨーを用意しておくとはいえ、その殆どは当日に作る。
想像しただけで気が遠くなる。
しかも、全ての作業がうまくいくわけではなく。
ちょっと気を抜くと空気を入れている途中でヨーヨーが空気入れから取れてしまったり、空気を入れたとしてもちょっと手を緩めればヨーヨーの空気と水が一緒に飛び出してしまう。
空気だけの風船と違って、水と一緒に入った風船は、それが水鉄砲のように風船から水が吹き出る。
「しまった!」
と思ったと同時に清田の顔に水が噴射される。
「うわっぷ!!」
水をかけられたしぼんだヨーヨーを恨めしげに見つめながら清田は顔を拭う。
静かな体育館の隅で、作られた僅かな不恰好なヨーヨーと出番を待つ大量のヨーヨーが立ちふさがる。
誰もいないフロアは毎日の練習とは打って変わって何も音は聞こえてこなかった。
地獄のような練習がここで行われているのが信じられないくらいに。
「あー…くそっ!」
清田は全て投げ打って体育館で一人大の字になって寝そべった。
何度も襲うめげる気持ちを、神の「バスケ部の命運は信長にかかっているんだよ」という言葉で自分を燃え上がらせてきたが、さっきかぶった水のせいで僅かに残っていた火種が消えてしまった。
練習後の作業は疲労感を倍増させた。
(疲れた…このまま寝ちまおうかな…)
同時に襲った睡魔に身を任せようと思った。
まぶたが自然に下がっていく…
「なんだ、電気ついてると思ったら信長だったのか」
ガラリと扉が開く音と共に、部活の時とは違うTシャツを着た神が体育館に入ってきた。
「…神さん!」
突然の来訪者に清田は飛び上がる。
「もうみんな帰ったよ。…あぁ、これを作ってたのか」
神は水の入ったヨーヨーを手に取ってしゃがみこむ。
「一個一個これで作るの?大変そうだね」
次にバケツに浮かぶ空気入れを手にし、神は慣れた手つきでヨーヨーを一つ作った。
あまりにもごく自然にヨーヨーを作る神に、清田は目を奪われた。
「へぇ、初めて作ってみたけど結構楽しいね」
綺麗な球体のヨーヨーを少し眺めてから、バケツに浮かべる。
そして何も言わずに次のヨーヨーに手を触れる。
(神さん、もしかして…)
もしかして、自分を手伝いにきてくれたのかもしれない。
でなきゃわざわざ体育館には来ないし…、現にこうしてヨーヨーを作ってくれている。
清田の胸に何か溢れるような感情が、どんどん湧き上がってくる。
「神さん…もしかして手伝いにきてくれたんすか…?」
「え?」
「だからこうしてわざわざ来て…俺に色々コツ、教えてください!」
「…ヤだよ」
キョトンとあっさり断る神を見て、清田は慌てる。
「あっ…そーっすよね。コツは自分で掴まないとダメっすよね」
「だから、ヤだよ。これは信長の仕事だろ?」
「へ?」
「コレは信長がやるの」
ニコニコとヨーヨーを指差しながら神は立ち上がる。
「え、神さん、手伝いに来てくれたんじゃ…」
「手伝う?そんなことしないよ。俺は自主錬にきたんだよ」
神はにっこりと笑いながらリングを指差す。
「時間がもったいないからね。ちょっとそこどいて。ボール出すから」
清田の座る真後ろには用具室の扉があった
神は扉を開けてバスケットボールが入ったかごを用具室から出す。
神は一日500本のシューティングを欠かしたことはない…!
(「時間がもったいない」って、神さん、そりゃないっすよ…)
『清田の手伝いは自分にとっては時間の無駄』と言われたような気がして清田はガックリとうなだれる。
そんな清田を尻目に神は整ったフォームで次々を3Pシュートを決めていく。
「信長」
「?」
神はシュートの手を止めて清田に話しかける。
「ほら、こうして付き合ってやってるんだから清田も早く練習しなよ」
「えっ?」
「極めるんだろ?俺が500本決めるまで付き合ってやるから。その間に信長もヨーヨー作り、頑張れよ」
「…!神さん!!」
神が直接清田に手を貸さないとはいえ、同じ空間にいてくれるという。
神にとってはシュート練習は毎日の事でそこに清田がいてもなんの変わりはないかもしれない。
でも、清田はその神の「気持ち」が嬉しかった。
(よし!やるか!神さんも応援してくれてる。それに、ここでめげたら牧さんや宮さんに申し訳ない!)
清田の目がギラリと光る。
神はそんな清田を見て、再びシュート練習を始めた。