甘いのはお好き?
「いらっしゃいませ~」
「いかがですかぁ~?」
小さな駅ビルの地下に入ると、どのお菓子屋もバレンタインを意識した商品が目白押し。
店員さん達の明るい声が店内に響き渡る。
色んな年代の女性がショーケースの前で真剣な顔をして商品を選んでいる。
中には「自分用」と買う人も。
(そんなにいいかね、チョコ…)
人混みを掻き分けながらテナントの間を擦り抜けていく。
この人混み、どうも苦手だ。
こんな人混みをものともしない女性達のパワー、やはりバレンタインという行事とチョコレートの魔力は恐ろしい。
でも、とりどりのチョコや可愛いラッピングの箱を前にしている女性達の表情はとてもキラキラしているように見えた。
思えば、桜木が晴子の為に張り切ったプレイをする姿や、晴子が流川に向けた眼差しは輝いて見える。
恋の力というのは凄いものだ…
今まで恋愛というものに無縁だった馨は、そのキラキラとした感情に対して羨ましく思えてきた。
(好きな人かぁ…)
ため息をつく。
華やかな場所に自分がいるのはなんて不釣り合いなんだろう…そう思ったら何だか虚しくなってきた。
(やっぱり帰ろうかな…)
人混みを抜けたところで、ある香りが漂う。
とても香ばしい、落ち着いていて、どこか懐かしい香り。
(いい匂い…)
匂いにつられてフロアの奥へと進むと、香りは一層濃くなっていく。
(この店か!)
今まで無表情で歩いていた馨の顔がパッと明るくなる。
そして迷う事無く、香ばしい香りの発信源である店へと入っていった。
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