夏祭り
されるがままについていくと、気づけば神社の目の前にいて、掴まれていた手首も解放されていた。
お祭りのメインである露店からはちょっと離れていて、古い神社のせいか人影はなかった。
人ごみ特有の熱気はなく、木に囲まれた神社はとても静かでざわざわと葉が揺れる音がする。
木が覆い茂っているお陰でここは更に暗く感じた。
遠くからのお祭りの明かりで薄暗い程度になっている。
(つ、疲れた…)
慣れない浴衣で人ごみを掻き分けながら走ったので、息が荒くなっている。
走るのをやめた途端に汗が噴き出してくる。
思わず神社の階段に座り込んで、手でパタパタと顔を扇ぐ。
流川くんは普段から走り慣れているせいか、少し汗をかいているだけで平然としている。
走ってきた方向をじっと見つめている顔に、遠くから届く明かりがうつっている。
「…どうして」
「は?」
「どうして、ここに?」
逃げてきた理由がわからなかった。
薄明かりの中で振り返った流川くんの姿にドキッとする。
「…別に」
「別に、って…」
「いーだろ、別に。」
「………」
なんて言葉足らずなんだろう。
オウム返しのような会話になってしまって、私は少しヤキモキしてしまって目線を反らす。
全然わからないよ…。
言わないと、わからないよ…
見下ろされてドキドキしながら、言葉の続きを待っていたが、流川くんは沈黙するだけだった。
あまりの沈黙の長さに、私は気まずくなって俯いてしまう。
遠くから聞こえるざわざわとした群集の音と、大気の低い音が入り混じって聞こえる。
「…別に、、」
その一言と共に、うつむいた私の隣にさわっと人の気配を感じた。
「人ごみが嫌いだから、来ただけ」
声がすぐ隣から聞こえてくる。
隣に座っている人を見ることができず、私はうつむいたまま。
それでも確かめたくて視線だけで確認すると、そこには藍色の浴衣が見えた。
その藍色を見た瞬間、今の二人の状況がはっきりと理解し、バッと視線を反対方向に向ける。
暗闇でも確認できた藍色…。
ちらっと見ただけだったけど、その距離も把握できてしまった。
『人ごみが嫌いだから---』
そう言ったけれど…
「じゃあ、なんで私を連れてきたの?」
「あー…」
あの時の状況を考えるとちょっと唐突すぎる理由に、「本心」を聞きたくてつい大胆なことを聞いてしまった。
「さぁ…わかんねー…」
「はぁ…」
そんな意味不明の理由であんなに思いっきり手首を掴むだろうか。
あんなに逃げるように足早になるだろうか。
もっと聞き込んでいけば、納得のいく理由が聞けるだろうか。
聞きたかったけれど…
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