夏祭り
「あ、金魚すくい!」
「ん?」
ふと横に目をやると青いプールの中に泳ぐ真っ赤な金魚が目を引いた。
オレンジの光の下で金魚が泳ぎ、時に逃げるようにサッと身をかわす。
小さな子供達が慣れない手つきでタモを使い、和紙を破いて悔しそうにしているのが見える。
「好きなのか、金魚」
「好きっていうか…まぁ、家で飼ってるけど」
突然自分に話題を振られてエヘヘと照れ笑いをする。
「違うのか…」
「え?なんで?」
「好きなのかと思って」
「な、何が?」
「…金魚。」
「金魚?」
ちょっと残念そうな顔でそっぽを向く流川をポカンと見つめる。
犬好きそうに見えるとか、猫好きそうに見えるとかならわかるけど、金魚好きそうに見えるってのは早々聞かない。
私って、どんな風に見えてたんだろ。
金魚好きな人間ってどんな感じ??
ぐるぐると考えていると、じっと見つめられていた事に気付いた流川くんが答えた。
「浴衣…。」
「え?」
流川くんは私の浴衣で泳ぐ金魚を見ていた。
「もしかして、これ…?」
自分も浴衣の裾で泳ぐ金魚を見つめる。
金魚すくいの中の金魚と違って、こちらは浴衣の中で優雅に泳いでいた。
…そっか。
これのせいだったんだ。
私の浴衣に金魚がいるだけで「金魚好き」と称するなんて…
何て発想だろう。
緊張続きだった私は、その事が妙におかしくて吹き出してしまった。
「やだ、浴衣が金魚柄だから私が金魚好きだと思ったの?流川くんって面白いね!」
「む、悪いか」
「いや、悪くないけど…面白いなぁって」
からかわれてむっとする流川くんをよそに、私の笑いは止まらなかった。
「やんのか、金魚すくい」
いつまでもクスクスと笑う私に呆れ顔半分で少しむっとした口調で、話を切り上げようとする。
「うん、やろうかな。家の金魚の仲間増やしたいし。それにほら、私、金魚好きだから」
私はからかうように浴衣を指差す。
「……ちっ」
舌打ちされたのは、私がからかったせいだとすぐにわかった。
だから嫌な気持ちにはならなかった。
沢山笑って、私の緊張はすっかりほぐれてしまった。
「あっ…あ~…破れちゃった…」
金魚と格闘してたった数秒、私のタモの和紙は、いとも簡単に破れてしまった。
もちろん、とった金魚はゼロ。
私は「参加賞」でおじさんから金魚を2匹受け取った。
「…ヘタすぎ」
「うっ…私、こういうの苦手で…」
隣に座って私の格闘を黙って見ていた流川くんから容赦ない一言が浴びせられ、私は言葉を詰まらせる。
ちょっと鈍い私では、すばしっこいものの相手は歩が悪過ぎた。
すくおうとした瞬間に金魚に逃げられて…
ズバリ言われて反論できずシュンとしてしまう。
「あと、袖、濡れてる」
「えっ?あぁっ!!!」
右の袖を見ると下の辺りが濡れてしまっていた。
金魚を追うのに夢中になって、袖が金魚のプールに浸かっているのに気づかなかったらしい。
…沢山浸かっていなかったのと、私がすぐタモを破ってしまったのが幸いして、被害は最小限に抑えられたが…
「あ~…濡れちゃったよ…」
浴衣を濡らしてしまったことには変わりない。
相変わらず鈍いな、私…
持っていたハンカチで浴衣の水分をトントンと叩いて取っていく。
「少しだけなら歩いてれば乾くだろ」
「え、そう、かな?」
「多分な。ほら、行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってよ」
私は急いでハンカチをしまって、流川くんの後を追った。
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