夏祭り


「来月、花火大会なんてあるんだ…」


学校帰りの電車の中、車両内のポスターを見ているときれいな大輪の花火の写真をバックに花火大会の告知がされていた。


大会のラストを飾るスターマインはここ一番の見ものだと大々的に煽りを入れてある。


「見に行きたいな…」


そう思った瞬間、胸がドキッとする。


ふと、好きな人の浴衣姿を想像してしまって、一人胸が高鳴ってしまう。


それはちょっとした期待。


(行くのかな、流川くんも…)


心の中で名前を呼ぶのも照れ臭い。


同じクラスの流川くんの、バスケットをする姿がとても魅力的で、時々こっそり練習を見に行っている。


教室で居眠りをしている時とは全く別の顔を見せるその姿に、私の目はあっという間に奪われてしまった。


そんな流川くんの見たこともない浴衣姿を一人想像して勝手にドキドキしている私は滑稽だろうか…


(でも、流川くんは人ゴミとか苦手そうだから行かないかも…)


休み時間はいつも一人でフラッと歩いているのを見かけるので、もしかしたら賑やかなところが嫌いなのかもしれない。


そんな彼の性格からして人が沢山出向くお祭りなど持っての外であろう。


半分諦めているものの、「もしかしたら」という期待を消すことができずに、一人私は「よし」と心の中で気合を入れて花火大会に行くことを決心した。








「あった、浴衣!」


家に帰って早速去年買った浴衣をタンスから引っ張り出す。


淡いピンク色に真っ赤な金魚が泳いでいる。


去年1回着たきりのこの浴衣。


当日はこれを着て行こう。



タンスの奥にしまってあったので、少しシワがついてしまっていた浴衣。


早速クリーニング屋に持っていった。


外は日が傾き始め、昼間の暑さが残っていてうだる様だったけれど、私の足取りは軽かった。


彼が花火大会にくる確証はないのに、なぜかドキドキしてしまう。


来ないかもしれない。


でも、来るかもしれない。


淡い期待を持ったまま、私は花火大会の日を指折り数えていた。


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