君は微熱
次の日、目が覚めると流川くんはいつの間にか帰ったようで、毛布はベッド脇にきちっと丁寧にたたんで置いてあった。
(この毛布はしばらく使わないでおこう…)
なんだか使うのがもったいないような気がして、片付けずにそのまま置いておく事にした。
昨日のお粥のお鍋はきれいに洗ってあり水切りカゴに伏せられている。
意外と几帳面なんだな…
親のしつけがいいのかな?
昨日の看病のおかげなのか風邪の症状はだいぶ軽くなっていた。
完治はしていないけれど、昨日に比べたら全く問題ないくらいの体調。
これも特製のお粥のおかげかな、なんて。
休む程の体調でもないので今日もいつもどおりに登校する。
校門にさしかかったところで私の隣でいきなり赤い自転車が音を立てて急ブレーキをかけて止まる。
ビックリして自転車の主を見ると流川君だった。
いつも朝練でこの時間には登校しないはずなのに…
「よぉ」
「お、おはよう…って、なにそのマスク」
私の視線の先には顔を覆う白いマスク。
口元を覆われたまま自転車を疾走させたせいか、ちょっと苦しそうに見えた。
「まさか…」
「朝起きたらノド、イガイガで」
「………」
…やっぱりうつってる!
原因はやっぱり私だよね?
どうしよう!うつしちゃった!
そうだ練習試合!練習試合あるのに風邪引いちゃったら出られないじゃん!
私、なんてことを!
「試合には出る」
今の私の心の中を読んだかのような返事。
「え、出るの?」
「トーゼン」
自信満々で言うけど、イガイガの喉で練習とはいえ試合にでるなんて無謀すぎる。
「ダメ!その前に部活も出るんでしょ?悪化したらどうするの?」
「ダイジョーブダイジョーブ」
「大丈夫じゃないよ!」
「そん時はお前に看病してもらうからダイジョーブ」
「へ?」
「食わせてくれんだろ、お粥」
「え?あぁ…うん…」
「よし」
意味がよくわからないまま勢いに乗せられて返事をしてしまった。
そんな返事に何か彼の中で決まって納得したようで、そのまま颯爽と自転車を走らせて自転車置き場の方へ消えていった。
ぽつんと取り残された私は状況をうまくのみこめずにその場に立ち尽くしていた。
「看病って…急に言われても…」
私が看病しにくという事は流川君の家にお邪魔するということで…
昨日の状況と立場を逆にして考えてみるが途中まで考えたところでぶんぶんと首を振って思考を停止させる。
(…無理っ!家に行くなんて絶対無理…!!)
看病は…したい気もするけど、きっと私の心臓が持たない。
昨日の私は風邪でどうかしてたからあの状況を乗り越えられたけど…きっと今の私じゃ乗り越えられない!
絶対、無理!
私は風邪の悪化を阻止すべく、自転車置き場へ全力で走った。
「無理!無理だから!!」
「なんで?」
「また私の熱が上がるから!絶対!」
「そしたらまたお見舞いに…」
「ダメ!もっと熱出るから!」
「??」
おわり
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