君は微熱
「…やっぱ熱いな」
ふーっと息を吐きながらその手をゆっくり私の額から離す。
私はとっさに今まで触れられていた部分をバッと両手で覆う。
…何故だかそこだけ妙に暖かく感じる。
自分で触っていても熱さがわかる。
きっとこれは風邪のせいじゃない!
る、流川君のせいだ!!
「メシ食ってないだろ。ちょっと待ってろ」
「…? うん…」
立ち上がってゆっくりと部屋から出て行くのを見守った。
ドアが閉まった瞬間、私はこれまでにないくらい大きな息を吐いた。
もう、すごくビックリした!
ビックリしたけど、やっぱり頭がぼんやりする。
喉の痛みが増しているから、やっぱり風邪が悪化してしまったらしい。
「……」
…あぁ、そうか。
流川君、心配してお見舞いに来てくれたんだ。
私は今この状況をようやく理解した。
いつも冷静で、他の人のことなんてあまり気にしていない人なのに。
『私の風邪を心配してくれた』
学校で「早く帰れ」と言ったのも、これのせいなのかも。
そして今こうしてお見舞いに来てくれたことも。
その事がとても嬉しかった。
私のことを気遣ってくれる。
そんな流川君の気持ちが嬉しかった。
軽いノックの音と共に再び流川君が入ってくる。
その手には、彼におおよそ似合わない小さな鍋を持っていて
、白い湯気が立っている。
それをベッド脇の小さなテーブルにそっと置く。
「ほら、食え」
私はゆっくりとベッドに座りなおしてお鍋を覗き込むと、そこにはあり得ないほどたっぷりのお粥。
あまりの量の多さに一瞬言葉が詰まってしまった。
「お粥?」
「見りゃわかんだろ」
「わかるけど…これ、流川君が作ったの?」
「おー。」
それにしても多すぎる。
嬉しい気持ちなどすっかり通り越して、その量に圧倒されてしまった。
「なんか…なんか、妙に量が多いんだけど…私こんなに食べきれないよ?」
「…煮てたらどんどん水なくなって…、足していったら…こうなった」
…あ、あぁ、お粥ってどんどん水分吸うからね。
きっと最初に入れたご飯の量が多かったんだ…。
だからどんどんカサが増してこんな量に…。
「…しかもちょっと茶色いね…」
「それは…焦げた…」
真っ白のはずのお粥にはところどころ茶色い部分が混ざっていた。
…もしかして強火で煮たのかな。
鍋を覗き込む目線をチラリと流川君に向けると、肘をついて口元を隠し、少し照れくさそうに横を向いていた。
普段、絶対料理なんてしないであろう彼が、キッチンで四苦八苦している姿を想像したら、胸がキューンと締め付けられた。
私のために作ってくれたんだ…
私のために…
流川君の横顔を見つめながら、ドキドキと嬉しさをかみ締める。
私の視線に気づいたのか、チラッと視線が合う。
「いーから食えるだけ食え。残ったら俺が食う」
「…わかったよ」
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