君は微熱
…暖かい匂いがする。
暖かくて、いい匂い。
その香りに心地よさを感じながらまどろんでいた。
そう、この香りはホッコリしていて、ちょっと香ばしい香りがして…
「おいしそう」な匂い。
おいしそうなご飯の匂い。
(あれ…??)
私、ご飯炊いてたっけ?
私、ずっと寝てたのに、
今こうして寝ているのに、
「ご飯」の匂いがする!!!
焦りながら必死に頭の中を整理している時に、ドアをノックする音が聞こえた。
「おぉ、起きた」
開いたドアからはちょっと驚いた表情を見せる流川君がいた。
「流川君!!??どうしてここに?」
「………ってめー…」
「????」
流川君の表情がみるみるうちにに険しくなる。
…微妙な沈黙。
私の頭は今の状況をさっぱり理解していなかった。
すっとぼけた私を前にして流川君はまた深いため息をつく。
「……やれやれ。お前さっきからトボケまくり」
「えっ?」
「自分で出迎えておいて、そりゃねーだろ」
「え?え?」
ぐるぐる回る頭の中を必死で整理する。
ええと…そうだ。
寝ているところに急に流川君が訪ねてきて…
ビックリして思いっきりドア開けて、それから…
………
…あれ?そこから記憶がない。
「ヒトがせっかく見舞いにきてやったのに」
「お見舞い…?」
「お前、急に倒れるからここまで運んでやったのに…。それすら記憶にねーのか」
「は…っ、『運んだ』??」
「おー、こーやって…」
そう言って流川君は運んだ時の手の様子を再現した。
胸の前で両手の平を上に向けるその仕草は、まさしくお姫様抱っこの仕草。
「なっ…!!!」
その事実を知った瞬間、私の顔から火が吹いたのを感じた。
触らずとも耳まで熱いのがわかる。
私は、こともあろうに、お姫様抱っこで運ばれたのだ。
流川君に。
恥ずかしい!!!
なんだか余計に頭がクラクラしてきた。
想像しようにも私の想像力が追いつかない。
「顔、赤いな。熱でもあるのか?」
「いや、これは熱じゃないと思う…多分」
…多分、この顔の赤さは風邪の熱のせいじゃないと思う。
別の、違うなにかのせいだと思う…!
「でも顔赤い」
「や、大丈夫だから」
「…どれ」
そう言って流川君はベッドの脇…私のすぐ隣にしゃがみ、私の額に触れた。
「!!!!!!!!」
いつも見上げている顔が、自分の目の前にある。
しかも…なんか…、ち、近い!!
私の目の前に、流川君の切れ長の目がある。
その目が私をじっと見つめている。
心臓の音が途端に大きくなって爆発寸前だ。
額に触れるちょっとゴツゴツし大きな手はとても大きくて、私の目を覆ってしまうほどだった。
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