HAPPY BIRTHDAY


「あ、少し待ってて」


馨は持っていたリストバンドを再び袋の中にしまい、それを自分のコートのポケットに入れたあと、神社境内にあるオレンジ色の屋根のテントに向かって走っていった。


そして紙コップ2つをおじさんから受け取り、慎重に戻ってくる。


「はい、これ私の奢り!」


手渡された紙コップの中には真っ白い湯気が立っている甘酒が入っていた。

少し冷えていた手が暖かくなる。



「奢り、ってこれ、元々タダじゃねーか」

「まぁまぁ、硬いこと言わないの。ささっ、飲んだ飲んだ!」

「オヤジかテメーは」


大きな鍋で温められた甘酒はちょうどいい甘さで、生姜が少し入っていて美味しかった。

冷えた体にじんわりと染み渡る。



「とりあえず、リストバンドのお礼だから」


両手で紙コップを持って、少しずつ体を暖めるように甘酒を飲んでいた馨がつぶやく。


「あっこの甘酒がプレゼントじゃないよ?『とりあえず』だからね、『とりあえず』。またちゃんと用意するから!」


ハッと気づいて慌てながら言い訳をする。


「…別に、いいのに」

「?」

「別に…これで。」



特に用意などしてくれなくていいのに。

こういう、何気ないものでも構わないのに。


「いやっ、それは私のプライドが許さないのでダメです」

「いいっつってんだろ」

「ダメダメ!絶対ダメ!」

「頑固者」

「どうとでも!プライド高いですから!」




甘酒を飲み終えてゆっくり神社を後にする。

道の途中で先ほどの暖かさなど嘘のように消えてしまった。

再びキンと冷たい空気が体中を刺激する。



「あっ!そうだ!!まだ言ってなかった!」

「なんだ、いきなり」

「お誕生日おめでとう!」

「………うす」

「……それだけ?」

「それだけ」

「……。ここは『お前もな』くらい言うところでしょ?」

「プレゼント貰ったら言ってやる」

「えー!なにそれ!」

「………くあ…」

「欠伸するな!」

「もう俺、ゲンカイ」

「…ったく」




家に帰り、玄関の扉を開けると両親がいきなりクラッカーを鳴らし、出迎えてくれた。


…真夜中だというのに近所迷惑だ、と盛り上がる両親をグイグイ押し込むように家の中に入った。



辺りはいつものように静寂になった。

この日、少し心躍るのは、「新年」という華やかな日のためだけじゃない。

自分たちの誕生日だから…




2011.01.01
Happy Birthday!!


fin


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