HAPPY BIRTHDAY



お参りを終えると参拝者を取り巻く空気が変わっていた。

先ほどとは少し違う、柔らかく暖かな空気に変わっていて、皆、晴れやかな顔でお辞儀をし、談笑している。


『おめでとうございます』

『あ、こちらこそ。今年もよろしくお願いします』

そんな言葉があちこちから聞こえてくる。





「あ、年、明けたんだね」


そういえば、先ほど小学生がデジタルの腕時計を見ながらだろうか、カウントダウンをして大盛り上がりしていた。



「あけまして、おめでとうございます」


馨は流川と対面し、深々と大げさに一礼する。


「今年も、ヨロシクお願いシマス」


流川はダウンジャケットのポケットに手をつっこんだまま、軽くお辞儀する。


「あと、これ。やる」


流川はそういうと手を突っ込んでいたポケットから少しくしゃくしゃになった緑色のビニール製の小袋を取り出し、馨の前にそっと差し出す。


「なに?これ」


手のひらサイズの小袋。

手渡されると思いのほか軽い。


「あけてみれば?」


不思議がっている馨に、少しぶっきらぼうながらに催促する。


「うん……」


止められているテープを丁寧に外す姿を上から微動だにせず、見つめる。



「あっ…リストバンド…!」



そこには真っ黒のリストバンドが入っていた。

ロゴは一切入っていない。


手に持ったリストバンドを目の前に持っていき、まじまじと見つめる。



「…誕生日プレゼント」

「……あ、ありがとう…」


突然渡されたプレゼントに感情が追いつかず、馨は目を丸くするだけだった。

近くで焚かれている火が目に映り、ゆらゆらと照らしている。



「…もしかして、出かけてたのはこれを買いに行ってたからなの?」

「その、もしかして。」

「……でもわざわざこんな寒いところで渡さなくても」

「や、なんか…一番最初の方がよかったし。家だとぜってー親が先に何かするだろうし」

「あぁ…イベント事大好きだからね」




予期せぬプレゼント。

とても嬉しかった。

一人で外出したのも、寝ないで二年参りにきたことも、これを一番に渡すため。
とても嬉しかった。


新品でフワフワのリストバンドが暖かく感じた。


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