雨の日に
黒猫を抱いて再び歩き出す。
両親は動物嫌いとは聞いていないからきっと連れて帰っても大丈夫、と一人納得して。
黒猫の小さな頭を指で撫でていると、顔に冷たい感触を感じた。
気のせいか、と最初は思っていたが、冷たい感触は次々と襲い掛かってくる。
道路にもその跡を次々と作っていく。
(しまった、傘…)
帰りはもう降らないかも、と思い、傘は学校に置いてきてしまった。
(や、俺の足ならすぐに着く)
道路がだんだん黒く色づくのを見て流川は猫にふわりとタオルの端をかけて走り出した。
「あら、折角止んだと思ったのにまた降ってきたわ」
家で夕食の支度をしている母親が雨の音に気づいて窓を外を眺める。
「いやね、またこんなに降り出して…楓は朝傘差して行ったし、大丈夫でしょ」
そう言って再び台所へと戻ろうとした時、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえた。
「楓?おかえり」
パタパタと玄関に向かうとずぶ濡れの流川楓の姿が。
「どうしたの!?そんなにびしょ濡れで!」
黒髪はぐっしょりと濡れ、雨の雫がポタポタと下に落ちている。
「傘はどうしたの?今朝差していったじゃない」
「…忘れてきた…」
「呆れた。そういうものはちゃんと持って帰るのよ。待ってなさい。体拭くタオル持ってくるから」
「あと、こいつにもタオル」
「…こいつ?」
流川は手に抱いていたタオルをそっと取る。
ミャーという鳴き声と共に小さな黒猫が顔を出す。
「どうしたの?この黒猫ちゃん」
「雨に…うたれてたから…」
「ミャー」
「やぁね、だからって自分も雨にうたれてくる事ないのに」
「……」
母は笑いながらバスタオルを手渡し、黒猫を受け取る。
「捨て猫?だったら家で飼いましょうか、この黒猫ちゃん」
母親に抱かれてゴロゴロと首を鳴らす黒猫を見て、流川はコクリとうなづく。
…よかった。
「ところで、この子の名前、何にする?あなたが拾ってきたんだからあなたがつけてあげなきゃ」
着替えを終えた流川がリビングに戻ってきたのを見て母親が声をかける。
「む…」
流川はソファーに座り、手を顎に置きしばし考えた。
「……クロ」
「…………クロ?」
「…クロで」
一瞬の間の後に、流川家のリビングから母親の笑い声が雨音と共に響いたのであった。
「わかりやすいわね、あなたって」
「……」
今日からクロは家族の一員。
「そういえばクロは楓に似ているわね」
「む」
「楓がクロに似ているのかしら」
「…しらん」
「ミャー」
おしまい。
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