甘いのはお好き?
家に着き、すぐにリビングの暖房を入れる。
「座って待ってて。今お茶入れてくるから」
コートとマフラーを脱ぎながら馨はキッチンへ行き、お湯を沸かす。
流川もコートを脱ぎ、椅子に腰掛ける。
「そうだ、これ、マネージャー2人からのバレンタインチョコ。先に帰っちゃったからって頼まれたの。お礼言っておきなね」
そういって馨は流川の前にピンクの箱をコトリと置く。
「チョコ…」
そうか、今日はバレンタインデー。
興味がないから全然気にしていなかった。
「はい、あと熱~いお茶!」
箱の隣に湯呑みを置いたあと、
「そしてこれは私からのバレンタインということで…」
「…む?」
お皿に置かれたお菓子。
「…なんだ?これは」
馨が自分の目の前に置いたものは、茶色の光沢のあるタレがかかったみたらし団子。
手焼きなのか、お団子には適度に焦げ目がついていて、焼き加減が絶妙だ。
「見ての通り、みたらし団子です」
「いや…それはわかってる」
それ以外なんだというのだ。
聞きたいのはそういう事じゃない。
バレンタインに無頓着な彼だが、バレンタインと言えばチョコ。
そして、その華やかさくらいはいくらなんでも知っている。
バレンタインにみたらし団子とは……ちょっとピンとこない。
「だって、あまり好きじゃないでしょ?チョコとかケーキとか」
「………」
確かに。
確かにチョコやケーキの洋菓子の類は食べられるが、好んで選んで食べたりはしない。
食べた後に続く口の中の甘味があまり好きではない。
そういう意味では甘いものを食べるならスッキリとした和菓子の方が好きなのだが…。
「なんか…かわいくねー」
「いいんですよ、可愛くなくても。どうせ食べるなら美味しい方がいいでしょ」
淡々と答えながら自分の分のみたらし団子を向かい側に置き、自分も腰掛ける。
「最初はねぇ、私もチョコにしようと思ったんだ。でもどうもチョコって苦手で…食べた後の喉が渇く感じがさぁ…や、味が嫌いなわけじゃないんだけど」
「………」
「そしたら、いい店見つけたんだよ!小さなお団子屋さんなんだけどね、お茶も売っててさ、中は小さな茶店みたいになっててお茶とお団子が食べられるの。ステキだったよ!」
「…で、コレか」
「そう、コレ。好きでしょ、こういうの」
「まー…どちらかといえば……」
「でしょ?」
馨が満足げにニッコリと笑うのを見て、流川の頬が少しだけ緩む。
バレンタインにお団子なんて雰囲気も何もあったもんじゃないけど。
熱くて渋いお茶にとても合う、とても美味しいみたらし団子だった。
…悪くないと思った。
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