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春 ~Spring~


暖かい日差しの中、二人で芝に寝転ぶ。

目を閉じると瞼を通して穏やかな陽の暖かさが伝わってくる。

このまま目を閉じて、あなたの隣でまどろんでいたい。

何気なく過ぎていく時間…



そんな、夢を、見た。

目を開けると自分の部屋の天井だった。

全ての出来事が夢だったと頭の中で理解するのに少し時間がかかるほど、自分の中でホンモノに近い「夢」だった。

この夢がホンモノだったらいいのに。

どうして夢なんだろう。

逢いたくてたまらなくなる。


暦ではもう春だ。

机にある卓上カレンダーは「3」が大きく書かれ、春という季節に似つかわしくピンク色の印刷が施されている。

そのカレンダーの下に大きく赤丸で囲まれている日付が目を引く。

この日をどれほど待ちわび、どれほど自分を奮い立たせたか。


「大きくなった自分を見せたい」


そんな思いで私は一身で歌い続けてきた。

海辺、体育館、夕陽、ライブハウス…

歌えば思い出は鮮明に蘇り、その思いを歌に乗せていった。

歌えばあなたを近くで感じる事ができた。

そのお陰、とは自分では思わないけれど、私達のバンド活動は順調だった。






待ちわびた日、少し早めに空港に着いた。

到着時間までの間があるのは十分承知だったけど、待っている時間は非常に長く感じた。

時計を見ても思ったより時間が進んでいない。

自分の心臓がもたないと感じた時、電光掲示板で飛行機が到着した事を知った。

沢山の人が重そうなスーツケースを転がしながら扉から出てくる。

その中に、彼はいた。

気づけば私は走り出して、彼に抱きついていた。


「っと、…ビックリした…」


彼はつけていたイヤホンを外して私の両肩に手を置く。


「…ひさしぶり」

「……」


私は言葉を返せないまま彼の顔を見れずにいた。

顔を上げると今まで堪えていたものが抑え切れそうになかったから。

こんなに逢いたかったのに、顔も見れないなんて。

…泣きそうだ。

自分の中で何とか感情を押さえこもうと葛藤する。

すると上からため息が降ってきた。


「お前さ、俺に顔、見せてくれねーの?」

「……」

「お前の顔が見たいんだけど」


その瞬間、私の目から涙がこぼれた。

抑えきれずにどんどんこぼれていく。

顔を上げると少したくましくなった彼の顔が見えた。

だけど、涙のせいで視界が妨げられる。


「…逢いたかった!ずっとずっと、流川くんに逢いたかった…!」


やっとの思いで言った言葉は震えて上手く出せなかった。

もう一言声を出そうとした時、私の視界は真っ暗になった。


「俺も」


声が近い。

私の頭を後ろからそっと掴む手が流川くんのものだと気づいたのはこの時だった。


「…俺も、逢いたかった。…ずっと」


切なそうな声が耳に響く。

私は抱きしめられている事に、気づいた。


「だからずっとお前の声聞いてた」

「え?」


体をそっと離して見上げると、私に「これ」と先ほど耳にしていたイヤホンを差し出した。


「これ、ずっと聞いてた。逢いたい時とか辛い時とか…」


渡されたイヤホンからはあの日渡したCDの曲が流れていた。

…私はこういう形であなたの近くにいた。

あなたも私の近くにいた。

そう思ったら余計に涙が止まらなかった。


私はまだまだ大きくなれる。

その力があなたの元へと繋がるなら、もっともっと大きくなれる。

お互いの夢への道は始まったばかりだけど、こうしてお互いの力になれるなら、頑張れる気がする。

この想いがあなたも同じなら…



春~spring~

END

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