#14 成長
馨はコンクリートの壁を背にして涙を流していた。
胸の奥が締め付けられて痛かった。
全国初出場の学校が、最強と言われる学校との死闘を制した。
己のプレイと熱意で、敵ばかりの会場から声援を受けた。
そして、一番心を捕まれた『彼』のプレイ。
『涙が出てきた』と言った記者の言葉と同じく、馨も彼のプレイに涙を流さずにはいられなかった。
見ない間に、すごく大きく成長していた。
自分より強い相手に、あんなにも自分の力をぶつけて、挑んで…
試合中に絶望を感じたのにも関わらず、己の力で立ち上がり、試合中に成長した。
どこにそんな強い力を秘めていたのだろう。
きっとそれは強い信念があるからだろう。
強い「目標」が…
「私の目標は…」
夢とか目標とか考えたことなかった。
自分のプライドだけでアメリカに行って…ただがむしゃらにバスケをして…
何か得たものはあっただろうか。
失ったものの方が多い気がする。
成し遂げるために何かしてきただろうか。
アメリカでのバスケは自分にとってプラスだったのだろうか。
負けじと必死にプレイして、勉強してきたけど、結果の出ていない今を思うと、何も考えずに行動してきたかもしれない。
純粋にプレイする彼を見て、自分の不甲斐なさに劣等感が強くなってくる。
馨は思わず座り込む。
キュッ…キュキュ……
廊下に何人かの足音が聞こえる。
男の人の声が聞こえてくるだけで他に声は聞こえない。
代わりに鼻をすするような音が連続して耳に入ってくる。
「はいあがろう」
「……!」
廊下から男性の声が聞こえてきた。
「負けたことがある、というのがいつか、大きな財産になる」
馨は山王の監督・堂本の言葉を聞いた。
「負けたことが、大きな財産に…」
今までモヤモヤしていた馨の心に、グサリと刻み付ける言葉だった。
「あ………」
頭上から声が聞こえた。
見上げると、先ほどフロアで走り回っていた人物がいた。
馨はハッとして涙をゴシゴシと拭いてから、彼の名前を呼んだ。
「沢北……さん……」
To be continues
20100513
→ちょっとあとがき