#14 成長
その後は両者互角で試合は進んでいく。
王者に全力で立ち向かう湘北の姿に、山王ファンだらけだったはずの会場が少しずつ湘北に味方する。
『頑張れ湘北!あと少しだよ!!』
湘北の頑張りが、観客の心を掴んでいく。
自分より大きな相手に必死に食らい付く宮城。
ヨロヨロになりながらも走り続ける三井。
最強のセンターに自らの力をぶつける赤木。
机に突っ込み、背中を痛めてもなお、全力で跳ぶ桜木。
そして、明らかに成長を見せた流川。
『頑張れ……!!』
そう祈らずにはいられなった。
1ゴールを争う試合に会場の熱気は最高潮になる。
だれもが声を大きくする。
会場が熱気に包まれる中、馨は手にギュッと力を入れるのみで無言で試合を見守った。
声が出なかったのだ。
20点差があった試合、桜木からの決死のパスを受け、流川が逆転のシュートを決める。
会場が一気にヒートアップする。
残り時間は僅か。
観客が盛り上がる中、両校に緊張感が走る。
ドクン…
ドクン…
一瞬の隙をかいくぐり、今度は沢北がボールをリングにくぐらせる。
残り10秒、1ゴール差。
背中を痛めた桜木が懸命に走る。
残り僅かでも諦めない。
それを見た赤木が桜木にボールを投げようとするが、河田弟の妨害により投げられない。
残り5秒。
山王サイドが一瞬勝利を確信する。
「!!」
流川が叫ぶ。
すぐさま赤木からボールが入る、受け取った瞬間、猛スピードで突っ込む。
流川のドライブに馨は息を飲む。
馨は柵を持つ手に更に力を込める。
同時に昨晩の南の言葉が頭をよぎる。
『あいつの試合に対する執念は凄かったわ』
『俺とは違う勝ちを求めてる』
『あいつの目標はでかいわーーー』
(…………目標…!!)
馨の胸の奥から何かが込み上げてきた。
(私の、目標は………)
流川が沢北を抜き去り、
シュートに跳ぶ。
しかし河田と沢北のブロックに阻まれる。
次の瞬間
「---楓っ!!」
「………!!!」
流川の目が桜木をとらえる。
すぐさま、空中で彼にボールを託す。
ボールを受け取った桜木はジャンプシュートを打つ。
桜木の放ったボールは、綺麗に弧を描き、
リングをくぐった。
「……………!!」
静寂。
審判の得点を認めるホイッスルが鳴り響く。
「……」
「……」
桜木が呆然と流川の前に歩む。
「……」
「……」
無意識、だった。
ハイタッチ。
二人の右手同士から心地よい音が発せられた。
ワァァァァァーーーー…
直後、会場に歓声がこだまする。
湘北のメンバーはフロアにいる5人へと飛び込んでいく。
死闘に敗れた山王の選手達は振り返ることなくフロアを後にする。
馨は会場の熱気を背中で感じながら、静かなロビーへと足を運んでいく。
両の頬に涙を流して。
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