#14 成長


流川は何かを掴みかけたが、それを遮るかのように沢北の容赦しないプレイが続く。

自分の運動能力と技術をこれでもかと流川に見せ付ける。

流川のプレイを完全に読み取り、徹底的に叩きつぶす。

流川は沢北の激しいシュートブロックにバランスを崩し、倒れてしまう。

そんな流川を沢北は目の前で立ち上がったまま見下ろす。


(1on1じゃオレには…勝てねぇよ、流川。あの子みたいに度肝を抜かれるようなプレイをしない限りはな…)


沢北は、倒れこんで立てないでいる流川に手を差し伸べる。

余裕に満ちた顔で。


(……………)


流川にとって屈辱でしかなかった、…が。


「あの流川が……あそこまで鮮やかにやられるのか…?」

「力の差を見せつけられたな…」

「負けちゃイヤ~~」


湘北サイドはこてんぱんにやられる流川を見て呆然としている。

無理もない。

幾度となくプレイで相手を黙らせてきた流川が、沢北のプレイで翻弄されているのだから。

呆れるほど盛り上がっていた流川親衛隊の面々は涙を流している。


「くそ……気に入らないな。…どうして泣くの?」


馨は、涙を浮かべる親衛隊の面々をキッと睨みつける。


「泣いたって……泣いてるだけじゃ何もならないんだからっ…」


握り締める拳に、力が入る。


……ズキリ


馨の胸が痛む。

その時後方から大声がとぶ。


「コラァーー!!このまま引き下がるのか流川!!」

「…!?」


馨は声のする方に振り返る。

先ほどの海南の選手のようだ。


「何とかしてみろ赤毛猿!!それでも神奈川の代表か、てめーらは!!」


その言葉に思わず馨は叫んでしまう。


「そーだっ!!自分で何とかしてみろっっ!!」

「………あれ?」


自分と同じような声に、声の主・清田は思わず会場内を見渡す。

今まで沈黙を守っていた馨は、自分の行動にハッと口を両手で塞ぐ。

しかし、叫んだことに対しては後悔はしていない。

…そう、自分で何とかしなければ、壁は乗り越えられない。

高い壁が立ちふさがろうとも、前に進むにはそれに向かっていかなければ。

自分の力で…



「どしたい。もう諦めたか、流川」


果敢に沢北に挑む流川だったが、未だに敵わないでいる。


(…流川、オレの「お礼」はまだ終わってないんだよ)


そんな流川を沢北は挑発する。

沢北は、楽しんでいた。

流川との1on1を。

沢北はかつて退屈だった日々を思い出す。

試合に出ても物足りない。

集中できない。

…つまらない。

父親の提案で行ったアメリカ遠征…。

アメリカの選手にはちっとも歯が立たなかった。

そして「彼女」のプレイを偶然見かけた。

大きなアメリカ人に向かって放ったあのシュート。

「彼女」はアメリカ人相手にあんなにも一生懸命に立ち向かっている。

退屈だったバスケに光が見えた。

間もなく遠征も終わり、「彼女」にはそれから会えず仕舞いだったのが心残りだった。

でも、目の前にいる相手は、きっと、彼女の……


(……だからどんどんかかってこいよ、流川。オレの「お礼」は、こんなもんじゃ終わらないんだよ…)



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