#13 プレッシャー


大歓声の中、湘北と山王の試合開始のホイッスルが鳴る。

ジャンプボールは赤木がわずかに勝ち、湘北ボールから試合が始まる。


『ディーフェンス!!ディーフェンス!!』


会場は山王への声援ばかり。

山王を見に来た客の多さがわかる。

だが、湘北の選手は落ち着いた様子でボール運びをする。

試合の初得点は湘北がアリウープで見事に決める。


『おおおおーーー!!!」』


会場にいる全ての人間が完全に虚をついたアリウープ、決めた本人達も何故か驚きを隠せない。

山王一色の観客、この攻撃で湘北を印象づけたが、山王の4番・深津は静かに同点にする。


(さすが、落ち着いてるな…)


再び湘北の攻撃。

観客の応援はやはり山王よりだ。

と、思った瞬間、別の方から一斉に声が上がる。


うおぉぉぉ!!!


『オフェンス!オフェンス!オフェンス!』

『三っちゃぁーん!!』

『ル・カ・ワ!!』


「な、何事っ!?」


突然の応援の声に一瞬たじろいでしまう。

声の発生元と思われる集団は、湘北ベンチの後ろに陣取っていた。

「炎の男三っちゃん」の応援旗と………

「RUKAWA LOVE」の旗が旗めいている。


「な、っ………」


馨の顔が途端に引きつる。

流川に熱い声援を送る集団に嫌でも目が止まる。

揃いのユニフォームに黄色いポンポン。

そして人目を気にしないキャーキャーという悲鳴に似た声援。

全員ノリノリである。

しかもかなりの人数。

なぜ今まで気付かなかったのか不思議なくらい、異様に盛り上がっている。

そんな集団を目の当たりにした馨は体に悪寒が走り、軽く目眩がした。

思わず後ろにひっくり返るような感覚に襲われる。


「なに、あれ……」


…なんなのだ、あの集団は。

「流川命」の応援旗から痛いほどの熱気が伝わってくる。

無意識にメガネをかばんから取り出し、帽子を深くかぶる。

中学の時も黄色い声援はあったが、あそこまで度が過ぎたものではなかった。

揃いのユニフォームに応援旗とは…

恋する女子のパワーとは凄まじい。

黄色い声援を受ける本人は中学の頃と同じく全く気にする様子はない。


(相変わらず…強い……)


目に入らないのか?

耳に残らないのか?

自分は昔と同様、これほどまでに心身共ににダメージを受けているというのに……

自分が興味を持ったもの以外は全く目に映らない。


「バスケバカめ……」


感心と皮肉が言葉となって現れた。



フロアにいる流川はいつも通りの精神状態で試合に臨んでいた。

気になっていた目は、赤みは残っていたものの、腫れの方は完全に引いていた。

控え室で眼帯を外した時、思った以上の治りに、「一晩でこれほど効くとは…さすが薬局直伝の薬だ」と一人感心した。


「効いたな……」

(カ、カリメロ~~!!余計な事を……!!)


これで試合だけに集中できる。


「ようし……」


ギラリと目が光る。

絶対に、勝つ。

自分の為に。

そして、チームの為に。


(勝つ。絶対に勝つんだ……)



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