#13 プレッシャー


太陽が高くなった頃。


「……む」


第1試合の途中で会場に来た馨。

第1試合が神奈川王者の海南なので、席の確保は難しいと思っていたのだが…


「……空いてない…。」


座席の後方からぐるりと全体を見渡すが、沢山の人で溢れている。

予想通りの事だったが……。

客は山王戦が目的の上で海南戦を見に来ていたのだ。


「はぁ…仕方ない、今日は立ち見だ……」


少しガッカリしたが、どうせ待っていても席が空くわけないと軽々と予想できる事なので、席探しを早々に諦め、喉を潤す為飲み物を買いにロビーへ向かう。


ダム……


「…ん?」


自販機を探していると近くでボールの音が聞こえる。

その音は明らかにロビー内から聞こえてくるものだった。

馨は音のある方へ歩いていくと「SHOHOKU」と書いてあるジャージがちらりと目に写る。


(あれは……)


どうやらボールの主はこのスポーツマンとは無縁そうな髪が赤い彼。

何やらブツブツ呟いているのが聞こえるのでチラリと覗き込む。


「そうだ…さらにこれを2回繰り返し、ダブルフェイク…」

(…それはダブルドリブルだ……)


湘北の赤い頭の主はこっそり練習をしているようだが、シュートフェイクの後ドリブルでかわす動作を2回繰り返している。

誰がどう見たってダブルドリブルだ。

…いいのか?大丈夫なのか?彼は。

本当にIH出場する高校の一員なのか?

疑問の年を抱いていると、目の前で赤い頭の男と監督らしき人物が話をしている。


「おや?もともと君に怖いものなどあったかね?」

「………ない!」

(あの監督、どこかで見たような……)


安西監督にデジャブを感じていたが、それが何だったのかは思い出せなかった。


(う~ん、なんか色んな所で見た気がするんだけどな…服装が違うからかな。どことなく白いスーツを着ているイメージなんだけど)



自販機でミネラルウォーターを買い、一気に半分程飲む。


「……ふう」


昨日は目のケガの事や「明日会える」という気持ちでソワソワしていた馨だったが、今日は何故か落ちついていた。

それは試合前のそれと同じだった。

緊張はしているが、それは適度な緊張感で、精神状態は穏やかな海のように静かに落ち付いている。

おかげで色々と考える雑念もない。

ただそこにいるだけの存在だった。




ワァァァァーーー……


会場から一際大きな歓声が聞こえてきた。

そろそろ第一試合が終わった頃だろうか。


(いくか……)


馨は持っていた水を飲み干し、ゆっくりと会場へ向かった。



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