#13 プレッシャー
山王戦、当日の空が明るくなり始めた朝。
「…………」
早朝に公園で自主練習をしているのが日課になっている流川は布団の中で自然に目が覚める。
雨の日以外の毎日行っている習慣なので体が起きる時間を覚えているのである。
……と言いたいところだが、本当のところ、大体は目覚し時計のお世話になっている。
自然と目が覚めてしまったのは、「全国大会」「山王戦」というものが本人は気付かずともそれに意識してしまい、神経を高ぶらせているせいなのかもしれない。
朝食の時刻までまだ時間があるが、このまま寝転んでいると二度寝してしまう自信が大いにあるので、仕方なく起き上がる事にする。
ゆっくりと階段を降り、ロビー近くのソファーへと向かう。
寝起き間もないので目がしっかりと開かず、何だかしぱしぱする。
目をゴシゴシと擦りながらソファーに向かうと既に誰か座っていた。
………副キャプテンの木暮だ。
人の気配を感じとり、木暮が振り返る。
「あれ?流川じゃないか。随分早いな。」
「……おはようございます」
木暮が「ああ、おはよう」と返したのち、かけていたメガネの位置を正す。
「お前にしちゃ珍しいな、こんな時間に起きてくるなんて。てっきりまだ寝てるかと思ったよ」
「…いつもこのくらいの時間に起きてるんで…」
「へぇ、知らなかったな……はは…、俺は1回起きたら何だか目が冴えちゃってね…。今から緊張しているらしい」
本人の言う通り彼の表情は硬く、緊張状態が続いていたのがうかがえる。
「お前は相変わらず落ち着いてるな、流川」
「……いえ」
落ち着いている、とは違うが、さほど緊張しているわけでもなかった。
相手が強いほど燃えてしまうタイプの彼は、昨日からずっとメラメラと静かに闘志を燃やしていた。
『山王を倒す』
『沢北を倒す』
そして、
『日本一の高校生になる』
と。
昨日の試合は片目が見えない状態で後半に臨んだが、「こんな状態でも負けられない」という気持ちがどんどん強くなり、自分でも不思議なほどプレイに集中できた。
「今日はいよいよ山王工業とか…なんだか信じられないな。俺たちがあの山王とやるなんて」
「……」
「頑張れよ、流川。お前なら沢北にも負けない気がするよ」
「……」
流川はまっすぐな視線で木暮の顔を見る。
この人の言葉は不思議だ。
思っている事を素直に心から言ってくるから期待をかけられても気負いを感じない。
まるで言った事が実現するかのような力さえ持っている様に思う。
「…こんなこと言ったら流川にプレッシャーかけちゃうな。流石に。……ごめんな」
木暮は申し訳なさそうに頭をかく。
……プレッシャーなんて。
チームを影で支えている先輩に期待され、応援されているのに……
モチベーションが下がるなどありえない。
プレッシャーを感じるどころか、ますます自分の中で何かが燃え上がってくる。
「…先輩」
「…なんだ?」
「…勝ちますよ、オレ。沢北にも…。山王にも…」
「流川…」
昨晩、赤木達に威勢のいい事を言ったものの、緊張感が取れず、自分はソワソワしているというのに、この男は……
なんという度胸だろう。
彼なら日本一の山王を、ものともしないかもしれない。
この安堵感……頼りになる男だ。
木暮は全ての緊張が取れていく感覚になった。
「そうだな。勝とうな、流川」
流川はコクリと頷く。
「今日は絶対に勝つ」と。
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