#12 勝つために


南は「明日は必ず試合を観ろ」と言って公園を後にした。


(沢北との勝負、見逃したらアカンで…)


南が公園を立ち去るのを見送った後、南が腰掛けていたベンチに今度は馨が座る。


「……ふう……」


何とも言えないドキドキ感で胸がいっぱいになる。

1つの試合でこれほどまでに人の気持ちを揺さ振るなんて。

明日の試合を見たら、私はどう感じるだろうか。

そして

明日の試合、どんな展開になるのだろう。

相手が山王なだけに予想がつかない。

馨は背負っていたカバンからバスケット雑誌を取り出す。

パラパラとページをめくり、「神奈川県立湘北高校」の選手一覧のページを探しだす。

ベンチ入りの選手を記載してあるページには簡単な紹介文が書いてあるが、そこには、センター赤木の評価しか書いていない。

『初出場---チームの大黒柱、C赤木の活躍に期待したいところ。』

流川楓はじめ、他の選手の記述はない。

わかるのは、

「#11 流川楓(1年) 187cm」

それだけだった。


(187センチ……大きくなってる…)


雑誌に身内の名前があるというのは何とも不思議な感覚である。

自然に目が止まり、何度も名前を見てしまう。


(明日だ、明日……)


取材にきた記者を感動させ、一人の選手の気持ちを変えた。

そして、毎日のように練習しあった人物。

会いたい気持ちと、いちプレイヤーとして彼のプレイを見たい気持ちとで胸は高鳴るばかりだった。



その頃、湘北高校が宿泊するちどり荘では、流川楓が南からもらった薬を塗ろうとしていた。


(効くのかな、コレ………)


効くかはわからないが、何もしないよりはマシだろうと、痛みを我慢してそっと薬を塗っていく。

後ろで薬を「毒」と勘違いしてほくそ笑んでいる男のことなど知らず…

そして、同じ広島に馨がいることも知らずに。



明日は不動の頂点「山王工業」との試合。

不安に駆られる者、期待に胸踊らせる者、日本一を倒すべく気合いが入る者、それぞれの思いが駆け巡る中、夜は更けていくのであった。


To be continues

09.11.27
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