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#12 勝つために


『キミは凄いプレイヤーだ』


深い言葉だった。

1つの試合で、「凄い」と断言させた。

そして、「凄い」と言った人物が自分のプレイを見たいと言う……。


(私のプレイ、ね…)


旅館で食事を済ませ、時間を潰す為に夜道を歩く。

蒸し暑さは少し残るものの、昼間のようなジリジリと焼け付くような暑さはなく、心地よさを感じる事ができる。


(日本、か……ホントに日本にいるんだな…)


日本特有の湿度に何故か懐かしく思う。

この日本に、この広島に、この同じ空の下に流川がいると思うと、少しワクワクしてくる。

できる事なら宿泊場所を捜し出し、押し掛けたかったが、父との約束があるので我慢した。

それにしても……

目は大丈夫だろうか。

日本一のチーム相手に片目のみの狭い視野で満足なプレイなど不可能だ。

いくら今日凄いプレイをしたとしても、体力の消耗、片目だけの負担は大きいはずだ。

旅館で読んだバスケットボール雑誌には山王の選手の紹介が載っていた。

シュートエリアの広さが自慢のセンター・河田。

相手の弱いところを的確に掴み、隙あらばボールを奪う司令塔・深津。

そして、攻守共に脅威の強さを持つスーパーエース・沢北。

雑誌には「優勝候補No.1」と書いてあった。

明日、エース沢北の相手をするのはきっと流川だろう。

今の流川がどれほどの選手になったかわからないが…

馨の目に自然と力が入る。


(沢北さん…あの選手は、強いよ、楓)


馨は山王を知っていた。

アメリカ遠征に来た山王を……。



しばらく歩き、ふと、バスケットのリングがある公園に目に入る。

馨はリングに吸い寄せられるように、公園へと入っていく。

リングの前に立ち、じっと見上げる。


「……ん?」


妙な視線を感じ、左を見るとそばにあるベンチがあり、そこに男が座っているのに気付く。

男は派手な柄のシャツを着ていて、目付きが悪い。


「………」

「………」


相手は馨が気付くのより前から存在に気付いたようで、馨と目が合う。

……というか、凝視されている。


「………」

「………」


無言の時間が続く。


(……しまった!)


瞬間、馨は思った。

誰もいない公園に、男女二人というこの状況……。


(「狙われて」いる!?)


急いで引き替えそうかと思ったのと同時に声をかけられた。


「お前、いつからそんな小さなったんや…?」

「なっ……小さっ!!」


いきなり声をかけられて、思わず声が出る。

確かに選手としては小さいかもしれないが……でも、165cmは決して小さくはないのに……なんて奴だ!


「お前、…ナガレカワか?」

「は?ナガレカワ?」

「お前、そんな小さかったか?…身長縮んだんか?」

「………はぁ??」


何言ってるんだこの人は。

馨はよくわからないこの状況を、必死に理解しようとした。

コイツは私を誰かと比べて小さいと言っている……

ナガレカワ…?

流れ……川……

『流川』!!!

きっとそうだ!!


「いや、『ナガレカワ』じゃなくて、『ルカワ』じゃない?」

「………はぁ?」


今度は男が訳がわからなそうだ。



……………



「ああ、お前、流川の姉ちゃんやったんか。ビビらせんなや」

「私をなんだと……」

「流川がいきなり小さなったかと思て、マジでビビったわ。…そういや眼帯しとらんしな…」

「……あほうか、アンタは」


とんでもない発想に、はーっとため息をつく。


「大体、お前がそんな顔しとるからや。そら間違えるわ」

「間違えるかっ!!」


ここで漫才のようなやり取りをしても仕方ないと気付き、まったく…と小さく呟いた後、


「で、こっちの説明は済んだんだよ。今度はそっち!どうして「流川楓」を知ってるの?」


少しイライラしながら男の説明を催促する。


「俺か……。今日の試合で湘北とやった豊玉のモン、て言えばわかるか?」

「豊玉!!」

「俺、そこの4番やってんけど……ってお前試合見んかったんか?」

「……4番」


4番って……


「なんや、姉ちゃんのくせに試合、見とらんかったんかい」

「試合は見なかった」


試合は見なかったけど……

この人が、「豊玉の4番」……



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