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#12 勝つために


「馨、ちょっとここに座りなさい」


夕食を済ませた後、リビングルームでコーヒーを飲んでいた父が馨を呼ぶ。


「なに?」


キッチンにいた馨は自分の分のコーヒーを持って父親の向かい側にあるイスに腰掛けた。


「なぁに?お父さん」


席に座るのを確認して、父はコーヒーを一口飲む。


「突然なんだがな、アメリカでの出張が終わりそうなんだ。」

「……え!!」

「こっちでの仕事が一段落ついてな……日本に帰ることになりそうなんだ。しかも早急に」

「ほ、本当に急な話だね…」


話の展開についていけない馨は苦笑いをする。

出張も急だったが、それが終わるのも急だとは……


「日本に帰ろう。馨」

「日本に……」


突然の帰国宣言に馨は驚くだけだった。

父は落ち着いた面持ちでゆっくりとコーヒーを口にする。


「楓のいる高校、インターハイに出るんだってな。……馨……、インターハイ、見に行ったらどうだ?」

「……え?」

「何を驚いているんだ。……見たいんだろう?」

「………」


確かに、見たかった。

きっと身長も伸びているだろうし、県のベスト5に選ばれたのだから相当上手くなっているはず。

それに……


『会いたい』


2年もの間、連絡をしていなかった等しかった。

声も聞いていない。

だから…


「……見たいんだろ?」

「………」


馨は黙ったままだったが、その沈黙は何を意味するか父にはわかっていた。


…楓に会いたいに違いない…


「まだアメリカでバスケを続けたいか?」

「………あ…」


馨のアメリカでのバスケは辛いものだったが、最近やっとうまくいき始め、道が開いてきた。

…またその話は、あとの話…


「…馨、日本で楓のプレイをよく見るといい。全国で楓がどんなプレイをするか…馨にとって、きっとプラスになると思うよ」

「全国での楓のプレイ……」


コーヒーカップをそっと抱えながら窓の外を見る。

外はオレンジの街灯が夜の街を照らしていた。


………



部屋で馨は考えていた。

楓が、全国に行く……全国でどんなプレイをするのか……

とても気になる。とても見てみたい。

同じプレイヤーとして、あの身長、あのスピード、あのジャンプ力は惹かれるものがある。

それは憧れに近い感情であった。

自分にも同じものがあればいいと、歯痒い思いを何度もしてきた。

でもこのアメリカで一つの道を見つけた。

身長が高くなくてもできることを。

ふと、コルクボードに貼ってある写真に目が止まる。

ボードには色んな写真が貼ってあり、その中で1枚、流川と二人で写っている写真がある。

満面の笑みでVサインをする馨の隣にはほんの少しだけ微笑んだ流川がいる。

その写真の彼を見つめる。


「…………楓」



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