#11 勝負
流川は話を続ける。
流川の眼光が一層強くなる。
「だから俺は……もう誰にも負けない。お前にもだ」
「………え?」
馨はビックリした顔をしているが、流川は当たり前のように口にした。
「お前にも負けない」
「でも……」
「1on1だ、馨」
「え?」
「…勝負しろ」
「!!!!!」
ゾクリ……
背筋がざわっとした。
この人は自分を男女関係なく、一人のプレイヤーとして勝負を挑んでいる。
昔は一緒に1on1をしたとはいえ、今は20センチも小さい相手に……
自分を倒すことが日本一への一歩だと…
山王戦で沢北とあれほどの勝負をした相手にそう思われるのは嬉しい事かもしれない。
でも……
馨は思わず立ち上がる。
「1on1って…そんなの、楓が勝つに決まってるよ……この身長差でどうやって押さえるの?パワーだって…全然違う…どう考えたって楓に歩があるに決まってる!」
「……それで?」
「それで、って…勝負にならないよ…」
「……どーだか」
流川も立ち上がり、目の前で困った顔をしている馨を見下ろす。
「2年前はできたはずだ。お前も真っ向から勝負してただろ」
「そうだけど…」
2年前は身長差・パワー関係なく向かってきた馨。
今はできないと言い張り、実際にも体が萎縮してしまっている。
「今できないなんて、俺は納得いかねー」
「………」
馨は何も言えずぐっとうつむいてしまう。
「まただんまりか?」
何も話せないでいる馨に流川はうつむき加減で続ける。
「まだ2年前のこと、気にしてんのか…?それとも、何かあったのか…。…アメリカで……」
「………」
馨はグッと唇を噛む。
やはり、この人に隠し事はできない…お見通しだ。
そう思った。
「そろそろ、何があったのか話せ」
「………」
いつまでも黙ったままでは何も変わらない事はわかってる。
でも…
「…もう少しだけ、待って…」
そう言ってゆっくりと部屋を出ようとする。
「……馨」
ドアを開けたところで馨を呼び止める。
馨は立ち止まるが返事はない。
「俺はお前も倒して日本一になる。ベストな状態のお前を、倒す」
「!」
少しの静寂の後、馨は部屋を後にした。
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