#10 基礎練習
シュート練習をする部員を見つめながら、ドリブルを続ける桜木。
近くのゴールネットでは流川がジャンプシュートを華麗に決める。
「……くそ……」
流川のシュートが凄いのは自らの2万本シュートの練習で理解していた。
『何百万本も打ってきたシュートだ』
(くそ、負けねーぞ……)
山王戦でのルーズボールをとる為の決死のダイブ、プレイ自体に悔いはないが、ケガをした事だけは悔しさがつのる。
(このケガさえしなけりゃアイツの3倍練習してやるのによ…)
桜木の顔に力が入る。
「……悔しそうだね」
隣で馨がにっこり尋ねる。
「何がそんなに悔しいの?」
「馨さん、俺はアイツの3倍練習しなくちゃいけないんすよ。」
「アイツ?」
馨が桜木の目を見ると、桜木の目は流川を追っていた。
彼に対する闘志がメラメラと燃えているのがわかる。
「アイツ」とは誰のことなのか、馨にはそれだけで伝わった。
「なのにこんな背中の状態じゃ3倍どころか…」
皆と別メニューで練習し、リミットがある体では人並み以上の練習は難しい。
練習する気持ちはあるのに体がついていかない。
桜木はそれが悔しくて悔しくてたまらなかった。
「弱気だね、花道らしくない」
「………」
桜木自身も少しビックリしていた。
こんな弱音を吐くなんて。
でも今まで練習に付き合っていた晴子には言えなかった。
彼女の前では、強い自分を見せたかったから。
「じゃあ、3倍練習すればいいじゃない。基礎練習」
「しかし!基礎練習だけじゃ、追い付けねぇ!」
桜木はドリブルをやめ、立ち上がり、ボールを持つ手に力を入れる。
しっかりと両手で握られたボールと共に、桜木の腕が悔しそうに小刻みに揺れる。
「基礎だけじゃ追いつけない?…どうだろうね」
馨が真顔で桜木を見つめる。
「花道、基礎をバカにしちゃいけないよ。ドリブルが出来ずにどうやって相手を抜き去るの?パスが出来ずにどうやって的確にパスを出すの?シュートも入らなければ得点にはならないんだよ」
一気に言葉を並べる馨の気迫は怖いくらいだ。
その気迫に思わず桜木の手から力が抜ける。
「教えてあげようか。花道。私がアメリカでやってきたこと」
「…アメリカ…」
馨は少し遠くを見て何か思い出したような素振りの後、一呼吸おく。
「基礎練習だよ」
「……キソ!!」
「そりゃ、ずっと基礎ばっかりってわけじゃなかったけど…でも殆どずっと基礎練習だったよ」
「2年も、ですか?」
2年という数字に桜木は驚きを隠せない。
その大きめに発せられた声に流川が反応する。
(………2年?)
話の内容は分からないが、確かに聞こえた。
「2年」 と。
(…何話してる…?)
気になるが話声は他の部員のドリブル音で聞こえない。
(……まぁ、いいか……)
気になるところだが、今は練習を再開する。
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