#10 基礎練習


今日のバスケ部の練習は安西の指示でシュート練習を行う事になった。

黙々とシュート練習をする部員達を必死に目で追う晴子。

ノートに表を書き、誰がどの位置からシュートし、成功したか失敗したか、○×で書き込んでいる。

表情は必死だ。


(今の桜木花道にとっても試練の時間だけど、晴子ちゃんにとっても試練の時間ね…)


「マネージャー」の立場になって間もない晴子。

彩子は手伝いたい気持ちを抑えて見守っていた。




「花道、あれ、シュートの基礎だよ」


ボールを慣れた手つきで、腰の周りをくるくる回しながらシュート練習を見る馨。


「ま、キソなんて庶民なら当然の練習だな!」


桜木は得意気な顔で鼻をふふんと鳴らす。


「おや?そのドリブルの基礎をしているのは何処のどなたかな?」

「むぐ………」


中腰でドリブルの基礎を行っている桜木は何も言えなかった。


「シュート成功率を数字で目の当たりにすれば成功率を上げようってやる気も起きるし、対抗意欲も沸くでしょ」


ガン!!


その時、宮城が目の前でジャンプシュートを外す。


「あ!ちきしょう!」


するとすかさず三井が宮城の隣でシュートを打つ。

ボールは綺麗にネットをくぐる。


「ったく、下手くそだな、お前は。こうやるんだよ」

「なにおう!」

「てめーはミドルシュート下手すぎるんだよ」


小さな火種がどんどん大きくなっていく様を馨は遠くから眺める。


「ほら、あんな風に。対抗意識湧くでしょ」


ライバルがいるというのはいい刺激になる。

おまけにシュートの成功率も上がる、というのが安西の考えらしい。


「シュートが成功すれば、それだけ勝利に近づくからね。花道も慣れてきたらシュート練習しようね」

「今すぐ…今すぐやりましょう!」


ドリブルばかりで飽きていた桜木はすくっと立ち上がり、主張する。


「ダメ。今日はドリブルやったらストレッチだよ」

「しかし…」


桜木はバスケがしたくて仕方がなかった。

早く本格的に練習しないと、どんどん流川との差が開いてしまう。

桜木は焦っていた。

たった1ヶ月バスケから離れただけで、自分の技術は恐ろしいほど体から離れていた。

手ですくった水のごとく、どんどん零れてしまうように、今まで身につけていったものがなくなっていた。

思うように動かなくなった体。

身につけた技術が1ヶ月でなくなってしまうという受け入れがたい現実。

そして、「早く取り戻さなければ」という心境。

それが「焦り」に変わっていた。


「今、無理に動いたら背中に負担がかかるよ。日本一のセンターになりたかったら、今は我慢する事だね」

「ニホンイチ…?」

「そ。日本一」


…「日本一」…


耳に覚えのある言葉に、桜木は身構える。

そう、流川の心にもあるであろうあの言葉。


「ジャンプ力、リバウンド…花道はセンターの素質あると思うよ」

「素質……」


馨は桜木の目の前に立ち、話を続ける。


「40分、フルで動いてもバテないスタミナ。そして動きの素早さ。花道はいいセンターになれると思うんだけどなぁ…」

「そ、そーすか?」


桜木は目の前で誉められてビックリしている。


「運動量はある。スタミナもある。…そこに技術が加われば最高だと思わない?」


馨は口角を上げ、目をギラリと光らせる。


「技術?」


桜木がポカンとする中、馨はニヤリと笑う。


「そ、技術」



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