#9 イライラ


(やっぱり流川先輩と馨先輩はスゴい!)


体育館を後にした水沢はワクワクとした面持ちで部室へ向かった。


(今は流川先輩にはかなわないけど…いつかきっと、あんな風に…)


強く開いたイチローの瞳にオレンジの夕陽が照らす。


「水沢」

「あ、キャプテン!」


声をかけたのは当時の富ヶ丘中のキャプテン、稲村。


「また流川とその姉貴は練習してんのか?」

「はい!」

「そうか………全く、勿体ないよなぁ…」


稲村が腰に手を当て、ため息をつく。


「??? 何がですか?」

「流川馨だよ」

「馨先輩がどうかしたんですか?」

「勿体ないと思わないか?」

「……は?」


稲村が眉間にしわを作りながら水沢を見る。

その表情に不気味なものを感じる。

水沢は稲村が何が言いたいのかさっぱりわからなかった。


「アイツはあの流川と互角にやりあえるんだ。女にしておくのは勿体ないよ」

「……え?」

「アイツが男だったら、流川と最強のコンビが組める。そしたら最強のチームになったのにな。残念だ」

「………!!!」


水沢の体が強張る。


(確かに、流川先輩と馨先輩が同じチームなら、凄いチームになるかもしれない……。でも……)


確かに見てみたいと思った。

息の合ったプレイが見れるだろう。

もし、公式戦にでたら……

でも、性別の違いを「勿体ない」とか「残念」だと思ったことはなかった。

そもそも、そんなこと考えもしなかった。

性別のハンデをものともしない、その一生懸命なプレイが馨のバスケなのに…

「女だから残念」と感じる人がいるとは思いもよらなかった。


「ま、水沢に言っても仕方ないよな。…じゃぁ、体育館と部室の鍵、流川に渡しておけよ、どうせ最後に使うのはアイツなんだから」


そう言って稲村は水沢の横を通りすぎていった。


「あ!お、お疲れ様です!」


イチローは稲村の背中を見たまま動けなかった。

バスケットボールの音が体育館から聞こえる。

何故かボールの音が大きく聞こえる。


「馨先輩………」


水沢はしばらくその場に立ち尽くしていた。




To be continues

09.09.17
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