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#9 イライラ


「よう。モテモテだな」


三井が後ろから馨に話しかける。


「同性にモテたって嬉しくないですよ」


準備運動をやめて振り返り、ムスッとして答える。


「なんだ、自覚あんのかよ。言うじゃねぇか」

「まぁ、モテてるのは私じゃなくて楓みたいですけど」

「あ?」


ムスッとしたまま流川を見る馨。

モップがけを終えた流川は左腕につけているリストバンドに手をあて、足首をくるくる回している。


「みんな私を楓と勘違いしてんですよ。私は楓じゃないってのに」


馨はイライラしていた。

今日1日流川目的の女子に囲まれていたからだ。

無視して黙っていたが無駄だった。

お構いなくキャーキャーと集まる彼女らは空気を読む、ということを知らないのだろうか。


「お前、流川と瓜二つだもんな。アイツの親衛隊はすごいぞ。これから大変だな」


三井はねぎらうようにポンと肩を叩く。


「………はぁ」


馨はうんざりしてため息が出る。

こうなる事は容易に想像できた。

中学の時もそうだった。

「流川くんみたい」と女子バスケ部の練習を見にくる人。

「流川くんに渡して」と手紙やらプレゼントを受け取ったり。

「お前が男だったら流川と最強のコンビになれたのに」と言われたり…

まったく…どうなっているんだ…

馨の顔が少しずつ険しくなる。


「……おい!」

「!!!」


三井に呼ばれて、ハッと我に帰る。


「どうしたんだよ、急に怖い顔して」

「あ………いや、何でもないです」


昔を思い出した。

忌々しい記憶。

今でも鮮明に思い出されて引き込まれてしまった。

思い出したくないのに、引きずりこまれてしまう。

もう忘れたいのに…


「ところでお前の事、何て呼べばいいんだ?同じ『流川』じゃややこしいだろ」

「あ、『馨』でいいですよ」

「そうか?」

「中学の時もそうでしたから」


中学の時も先生以外は名前で呼ばれていた。

「流川」と区別する時に名前で呼ばれたり…

まぁ、「流川楓」を名前の方で呼ぶのは到底できないので、馨の方が名前で呼ばれるようになっただけなのだが。


「ま、あんな連中は流川みたいに気にしないことだな、馨」

「ミッチー先輩……」

「誰がミッチーだ!!」



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