#8 転校生
1年10組
(…うぜぇ……)
流川は机に伏して、これから寝る態勢のままイライラしていた。
「7組にきた転校生って流川くんと双子なんだって!」
「私、見たよ!すっごくそっくりだったの!」
「ホントに?私も見たい!」
廊下から声が聞こえてくる。
……うるさい。
みんな好き勝手な事を言って…。
同じ顔がそんなに珍しいのか。
見世物じゃねーのに。
人の気持ちも知らないで…
(どあほうが……)
イライラとうんざりした気持ち、その両方が嫌になり、ガタリと席を立つ。
(馨は7組か……)
馨のいる7組へ向かおうと教室を出る。
廊下にいる女子がそれを見てヒソヒソと話しだす。
(あ!流川くんよ!)
(やっぱり本物はカッコいいわね~)
そんな女子の話し声が聞こえ、ある言葉に反応する。
(「ホンモノ」、だと…?)
廊下を歩く足がピタリと止まる。
目線だけ変えて女子に対してギロリと睨みつける。
「「!!!!」」
冷たい視線。
氷の様にヒヤリと冷たく、刃の様にギラリと鋭い視線に女子はビクリと凍り付く。
「あ………」
高い位置から送られるその視線に、女子は動く事を忘れてしまったように固まる。
「ちっ………」
大き目の舌打ちをした後、流川は再び歩きだす。
女子は固まったままだ。
(どあほうが。「ホンモノ」ってなんだよ。俺が「ホンモノ」ならアイツはなんなんだ………)
流川のイライラがじわりじわりと高まっていく。
(アイツは俺の「ニセモノ」だっていいてぇのかよ……!)
ポケットに入れた手をグッと強く握り締める。
(どいつもこいつも、ヒトの気持ちも知らないで……)
流川のイライラはピークに達し、爆発しそうになる。
近くにある壁を殴ってやろうかと考えたその瞬間だった。
「オラオラ!てめーら、どいたどいた!!見せもんじゃねーぞ!!!」
桜木の声が飛びこんできた。
(あれは…)
気付くと7組の教室から馨が桜木に背中を押されながら出てきた。
(どあほうは7組だったのか…)
二人の後姿を見ながらそんな事を考えていたら、次に水戸が出てきて目が合う。
「…流川…」
「…………」
流川の顔を見た途端、水戸はふっと口元に笑みを浮かべる。
「怖い顔しやがって……お前も大変だな……」
「…………別に」
「こっちは大丈夫だ。安心しろ。まぁ、俺達に任せておけよ、流川」
「…………」
水戸はそう言って桜木の後を追っていった。
流川は更に後から出てきた3人を見送ってから、自分もその後についていく事にした。
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