#8 転校生
「なんか…ありがとうね」
「ぬ?」
馨が改まってお礼を言う。
「楓を知っている人でこういう風に接してくれる人は久しぶりだよ。」
馨は手すりに寄りかかって遠くを見つめる。
「……??」
桜木の何のことだかさっぱりわからない様子に水戸が隣から口を出す。
「これだけルカワに似てるんだ。女子達はきっとあんな反応するだろうな」
「あぁルカワ目的、ってわけか」
「それともう一つあるんじゃないか?」
水戸が馨を見るとそれに気づいた馨が水戸を見る。
馨の顔が一瞬驚いた顔になる。
「どうしてわかったんだ」、と。
そして少し目を伏して消えそうな声で話す。
「私を、私として見てくれないんだ…」
それを言った後、馨の顔が急にキツくなる。
「私を、楓として見るんだ。同じ高校に転入するってことは…こういう事は覚悟の上だったんだけどね」
馨と取り囲んでいた女子の目的は馨ではなく「流川楓」であった。
『仲良くなれば、流川楓に近づける』
『流川楓にそっくりな人物と仲良くなりたい』
馨という人物ではない。
思惑の裏には自分そっくりの双子の弟、流川楓の存在があった。
自分の顔は気に入っているし、楓の事は大好きだ。
だからこそ、そっくりの双子ということがネックになってしまうこの状況が非常に辛く、苦しい。
自分の存在がなんなのか、わからなくなってしまう。
みんなにとって「私」とは何なのだろう…
「ああいう人たちは、私の後ろに楓を見るんだ。私を見てるんじゃない。楓なんだ…」
「馨さん…」
馨は少し泣きそうだ。
「仲良くなりたいっていう子もね、私と仲良くなりたいのと同時に、楓とも仲良くなりたいって思ってるんだよ」
同じ顔故の悩み。
いっその事嫌いになれたらよかったのに。
でも、もう一人の自分を嫌いになることなんてできなかった。
一緒にバスケをして自分の存在を認めてくれる相手を…
「私は、楓じゃないんだよ…」
「「「「………」」」
馨の話を聞いて、5人は何も言えなかった。
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