#8 転校生
桜木と馨はいつの間にか屋上にいた。
無意識の行動に桜木は少し戸惑っていた。
馨は屋上からの景色をぐるりと見渡した後、桜木に視線を向ける。
「ありがとう、桜木花道」
馨がくるりと振り返り、桜木にお礼を言う。
「あの集団から解放してくれたんでしょ?」
「べ、別に!そういう訳では…」
桜木は慌てて一歩後ずさりする。
「馨ちゃんが嫌そうにしてたから連れてきたんだろ?花道は」
校舎へと繋がる扉から水戸が割り込む。
全てわかりきった顔をしている。
「ち、違う!別にっ!そういうアレじゃ…!」
全力で否定しきれない桜木に馨がやわらかく笑う。
「いや、私もちょっとあの場所にいたくなかったから、助かった。だから結果オーライだよ」
今の馨に、女子に囲まれていたような険しい表情はない。
穏やかな表情になった。
「「「おおおおーーー!!」」」
遅れてきた3人の声がそろう。
「すげーーー!!!」
「花道の言った通りだ!!!」
「ルカワそっくりだ!!」
口々に言いながら馨の近くに駆け寄る。
「おお~!やっぱ似てるけど女の子の顔だな!」
「…とりあえず制服姿は大丈夫そうだぜ…」
「バカ!高宮声でけーよ!」
心配された制服姿だが、馨の手足はスラリと長く、スポーツをしているだけに体の線も引き締まっていて、細い。
顔も流川に似ているものの、とりあえず制服姿に違和感はなかった。
「ん~、でもやっぱホントに似てるな!」
「双子ってすげーな」
「で、キミ、名前なんていうの?」
「…あ、あぁ…馨…だけど」
突然不良姿の3人に囲まれた馨は思わずどもってしまう。
そんな馨をよそに大楠たちは盛り上がる。
「馨ちゃんか!とりあえず美人系だな!」
「そうだな。ルカワに似てるが美人系だな」
「ちょっと男前な美人系??」
「それだ!!!」
勝手な感想を3人で語りだす。
(美人「系」、て…)
馨がクスリと笑う。
見た目は悪そうだけど、本当に悪い人ではなさそうだ。
…面白い人達だ。
ここにいる人達は自分を「流川馨」として接してくれている。
馨に流川楓の影をちらつかせて「魂胆」がある先ほどの集団とは違う。
「あなた達、面白いね。なんか仲良くなれそう!」
「そうだな。なんかあったら力貸すよ。なぁ、花道?」
水戸が意味ありげに桜木の肩をポンと叩く。
「う……あ、あぁ…」
水戸の言葉に桜木はやはり複雑な表情になる。
「ホント?嬉しいなぁ!」
馨がニッコリと微笑む。
「おお、なんかますます複雑な関係になってきたな」
「馨ちゃんはルカワと違って性格よさそうだし…」
「こりゃ面白くなりそうだな!」
高宮達はこれから何が起こるかワクワクしていた。
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