#8 転校生
休み時間。
桜木のイライラはピークに達していた。
「本当に流川くんそっくりね!」
「流川くんと双子なんでしょ?」
「一緒に住んでるんでしょ?」
「ねぇ、私と仲良くしない?」
隣の席に女子が群がっている。
教室の扉には噂を聞き付けた他のクラスの女子が一目見ようと集まっている。
「ホントだ…流川くんそっくり!」
「仲良くなったら流川くんとも仲良くなれるかな…」
桜木のイライラの原因はコレだ。
「ったく、ルカワ、ルカワと……うるせぇな……」
「抑えろ、花道。」
隣の席で「流川」の文字が並ぶので桜木の怒りのボルテージが上がっていく。
桜木の席には他のクラスにいる大楠達も集まっている。
「予想通り、女子に囲まれてるな!」
「つーか、女子の壁で全然見えねーな」
「折角拝みにきたのによ」
大楠達も馨を見に来たクチだが、女子に阻まれてその姿を見れずにいた。
馨の周りは女子でびっしりだ。
普段は話しかける事ができない、近くで見ることもなかなかできない流川に、そっくりな人物にこうも近くで話しかける事ができる。
仲良くなれば、流川との距離も縮まるかもしれない。
女子のアピールは必死だ。
そんな女子達のアピールを見ていた水戸が真面目な顔で呟く。
「…しかし、本人にとっちゃ面白くないだろうな…」
「なんでだ?」
「さっきからルカワの話しかしてねーし」
「………」
水戸に言われて聞いてみると女子の思惑が聞いてとれる。
「この人と仲良くなれば、流川楓に近づく事ができる…」
話す内容は流川楓の事ばかり。
しかも女子が一方的に話しかけているだけで、馨の声は一切聞こえてこない。
「…………」
桜木がチラリと横を見ると女子の壁の合間から馨を見る事ができた。
「……………」
一方的に話かけられている馨は肘をつき、実に不機嫌そうな顔をしている。
不機嫌な馨の顔はますます流川そっくりに見え、女子のときめきは増すばかり。
(…はぁ…まさかここまでになるとは)
馨はため息を一つついた。
「ぬ……」
その微かなため息を桜木は耳ざとく聞き取った。
そして、自分でも予想できなかった行動をすることになる。
ガタッ!!!
「花道!!!」
桜木が急に立ち上がる。
「オラオラ!てめーら、どいたどいた!見せもんじゃねーぞ!!」
桜木が女子の集団を掻き分ける。
「ちょっとナニよ!」
「なにすんのよ!赤毛猿!」
女子のブーイングなどお構い無しに馨に突き進み、馨の前に立つ。
「…………」
「…………」
馨は肘を付いたまま目線だけで桜木を見る。
「行きましょう!!」
「………は?」
ほらほらと馨を立たせ、グイグイと背中を押し、教室の外へと向かわせる。
「え?突然ナニ?」
訳がわからなかったが、馨は特に抵抗することなく、桜木に導かれるまま、教室を出た。
「もう!なによ!あいつ!」
桜木の突然の行動にヒートアップする女子達の横を水戸は静かに通り抜ける。
「…馨ちゃんはルカワじゃないんだぜ」
水戸はボソッと呟いて、桜木の後をゆっくりと追った。
「おい!待てよ、洋平!俺らも行く!!」
野間達も後を追った。
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