#8 転校生


馨はふと、閉じていた目を開ける。

高校まであと少しのようだ。


「楓、起きてる?」

「ん、なんとか」

「よし!」


…よかった、起きてたようだ。

少し経つと流川が何かに気付く。


「………少しスピードあげるぞ」

「え?なんで?」

「いーから」


そう言って突然自転車の速度をグンとあげる。


「…うわっ!」


急にスピードをあげるので肩を持つ手に力が入る。

前方に背の高い赤い頭が見えてくる。


「あ!!!!」


何かを言い掛けたが間に合わなかった。

流川は赤い頭の主の横スレスレを猛スピードで走り抜ける。


「どわっっ!!!」


急の出来事に桜木はバランスを崩す。


「あっ!てめぇ!このルカワ!!!」


流川はスピードを緩めないまま桜木を置き去りにする。

遠くから桜木の叫び声が聞こえる。


「………」


あっという間の出来事に馨は言葉がでなかった。


「…楓、いいの?」

「気にすんな」


そんなことを言われても…

後ろを気にする馨をよそに、流川は猛スピードのまま校門をくぐり、自転車置き場に到着する。


「ついた」

「あ、うん…」



先ほどの事などなかったかのような態度。

きっと日常的にからかってるんだろう……馨はそう思った。

自転車で轢かなかったところを見ると、背中のケガを悪化させない配慮なんだろうか…


「じゃ、俺、体育館だから」

「うん。ありがとね」


ひらひらと手を振る馨をチラリと見て、流川は体育館へ向かった。


「私も行くか、職員室…」


この学校で「流川楓」を知らない人はいないだろう。

そんな学校に「流川楓」そっくりの双子の姉がくる。


(また、何か言われるかな…)


少しうんざり気味に職員室に向かう。



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