#7 それぞれの夜


「……おい」

「なに?」


流川には聞きたい事がもう一つあった。

ベッドの上で座っている流川の隣で壁にもたれかかって胡坐をかいている馨に尋ねる。


「なんで黙ってた」

「なにを?」

「アメリカから帰ってくるの」


母親は知っていたのに何故自分が知らないのか…

意図的に知らされなかった理由が気になる。


「…ああ、そのことね」


馨は何かを思い出して、あはっ、と笑う。


「楓には秘密にして驚かせようって、…お父さんが」

「…………は?」


意味がわからなすぎる。

普通、こういうのはちゃんと家族に連絡するものだろう。

…普通なら


「楓、あまりにもポーカーフェイスだからさ、驚いた顔が見たかったんだって、お父さんが。だから楓には内緒にしておこうって。」

「…………」


そんな理由で…

なんか驚いたというか呆れた。

突然帰ってきた驚きより、別の驚きの感情が生まれた。

「そんな事でわざわざ秘密にしておいた」という事実に対する「驚き」

あっけに取られている流川に、ニヤニヤしながら顔を覗き込む馨。

馨もなんだかんだで楽しそうだ。


「びっくりした?」

「なんか……くだらねぇ…」


思わず額に手を当てる。

ニコニコして聞かれると、脱力してしまう。


「それほど楓の顔が見たかったんだよ。色んな表情の楓が。」

「………くだらねぇことしやがって」


確かに自分は他の家族のように感情を素直に顔には出さない。


何もかもつまらない、という感情だからではないのだが…

…どうも、なんか、ニガテで。


「じゃ私の時は?」

「……ん?」

「体育館に顔出した時だよ」


妙にキラキラしている顔でズイッと顔を覗きこまれる。

こいつも俺を驚かせたかったクチだ。

いわば共犯者。


「あぁ…チョットだけ」

「え、ちょっと!?」

「……少ーしだけ」

「なんだ、少しだけかよ!!」


オーバー気味に驚く馨。

驚かせたいのに逆に驚いている。


「……しまった!私が驚かされた!」

「俺の、勝ちだな」

「何の勝負だ」


なんにせよ、してやったり。

驚いたには驚いたが、すんなり自分の前にいる状況に、自分がすんなり受け入れてしまったので、思った以上に驚かなかったのは事実。

だから俺の勝ちには変わりない。

…久しぶりの会話。

やっぱり悪くない。

こいつといると、楽しい、と流川は思った。




To be continues

09.09.03

→ちょっとあとがき
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