#7 それぞれの夜
…更に別の場所
流川家
「いやぁ~家族揃ってのご飯はいいなぁ~」
久々に家族全員が揃った。
父・樹(いつき)は呑気に妻・葵(あおい)の手料理を堪能している。
葵は二人の帰国を知っていたようで、テーブルにはとりどりのご馳走がならんでいる。
馨が帰ってきたということは、当然父親の樹も帰ってきたというわけで…
「なぜ、こんなに料理が…」
「久々に賑やかになったわ~。楓ったら家で何も喋らないんだもの」
父と馨がアメリカにいる間は、母と二人暮らしだった。
自分とは違ってよく喋る両親と姉。
若干父の方が寡黙…なのかもしれないが、自分よりは喋る方だ。
流川は3人の話を聞きながら箸を進める…そんな食事風景。
今も3人は話に花咲かせ、自分はその話を聞きながら黙々とご飯を食べている…2年前と全く変わらない風景に懐かしさを感じる。
「それにしても楓は更に大きくなったんじゃないか?今何センチだ?」
樹が流川を改めてまじまじと見ながら茶碗を置く。
「…187」
自分も箸を止め、樹と視線を合わせる。
「180越えたか!凄いじゃないか!」
大袈裟に目を丸くしている。
すると葵が思い出したように吹き出す。
「そうそう、この前なんか寝ぼけて入り口で頭ぶつけて悶えてたのよ!」
「……む……」
……確かに、ぶつけた。
たまたま和室で昼寝して…部屋に戻ろうと立ち上がったらふらついて、ふすま上部に頭をぶつけた。
和室の境目はふすまの枠と欄間のせいで低くなっている為、かがまないといけないから困る。
この身長、時には便利だが、時には不便だ。
「あはっ!あはははは!ド、ドジ!!マヌケ!!あはははは!!」
夕飯の最中だというのに馨は大爆笑している。
笑いすぎて涙が出そうな勢いだ。
「寝ぼけてぶつけるなんて……ククク……マ、マヌケすぎ……」
「…………」
「もうダメ。お腹イタイ。ぷっ…あははははは!!」
馨の笑いは止まらない。
どうやらツボに入ってしまったらしい。
(こいつは……)
ズビシ!!!
そんな馨に鉄槌。
隣で腹を抱えて爆笑し続ける馨の頭頂部にチョップしてやった。
「ぎゃぁぁぁ!!!痛ぁぁぁぁぁ!!」
大袈裟に頭を押さえた後、睨み付けられる。
「ボーリョク反対!」
「暴言ハンタイ」
「か弱い女の子に向かって!」
「カヨワイ…ダレが?」
馨の睨みが続く。
流川はそれをしれっと流す。
「いやぁ、賑やかな食事はいいなぁ」
樹は呑気に唐揚げに手を伸ばしている。
「やっぱり皆揃った方が楽しいわ」
…本当に能天気な両親だ。
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