#7 それぞれの夜
「なにぃ!?流川そっくりの姉貴だと!?」
思わず大きな声が出てしまい、周囲から冷たい視線が向けられる。
練習後、桜木軍団は行き付けのファミレスにきていた。
桜木は今日出会った人物の事を誰かに話さずにはいられなかった。
「本当か?花道。いまいち信じらんねーが…」
「さっぱり検討もつかねーよ」
「っていうか…検討したくもねーな」
流川そっくりの女など、いまいち想像できない4人は、眉間に力が入ったままになる。
「オソロシイことに、事実だ」
「…………」
「マジかよ…」
大っ嫌いな流川に関する話題を桜木自らする程だ。
…流川にそっくりの女の兄弟は本当に存在するようだ。
「それは………オソロシイな………」
つい黙りこんでしまう。
「ハルコちゃんのとこは似ても似つかないのにな…」
高宮が思い出したようにポツリと呟くと同時に桜木は反射的に椅子から立ち上がる。
「似てもらっちゃ困る!!」
「そうだな!似てたらそれこそオソロシイぜ!」
桜木以外ぎゃはははと爆笑し、またも周囲から冷たい視線を浴びてしまう。
同じDNAを持っているのに何故ああも別人のように似ていないのか…
人体の神秘と不思議をしみじみと感じてしまう。
「そういえば明日転校してくるんだって?」
「ぬ??」
「流川の姉貴だよ」
水戸が机に肘をつきながら話題を元に戻す。
「ああ、そうだ。明日転校してくるらしい」
「う~ん…流川そっくり、か…」
水戸が少しニヤリと笑い、桜木以外の仲間をチラリと見る。
何かが通じあい、揃ってニヤ~と笑いだす。
「「「何か起こりそうな予感!!」」」
何かを感じとった4人はニヤニヤしながら声を揃える。
「な、何がだ!?」
何かを共有した4人とは違い、桜木ただ一人が訳もわからずにキョロキョロと見渡す。
「わからねーのか?花道」
「だってよぉ、流川そっくりなんだろ?」
「あぁ、女子が黙っちゃいねーよな」
「ぬ……」
桜木は目の前のドリンクを一口飲む。
どことなく嫌な予感。
「そいつ、毎日バスケ部にくるんだろ?」
「そーだ。だからなんだよ」
「まだわかんねーのかよ、花道」
自然と4人の声が揃う。
「「…体育館、凄いことになりそうだな!」」
「きっと見学しに来る女子がいるだろうな!」
「流川とその姉貴目的、の!」
「ふぬ……!」
桜木は力が入り、プルプルと震え出す。
4人のニヤニヤは止まらない。
「「「ハルコちゃん、どうなるかな!!!」」」
一同桜木を囲むようにして声を揃えた、
次の瞬間ーーー
「ふんぬーーー!!てめーら!!」
ゴスッ
ゴスッ!
ゴスゴスッ!!!
「フン!帰る!」
桜木はのっしのっしとファミレスを後にした。
シュゥゥゥ……
テーブルには額から煙が出た4人が残され、ファミレスにはいつもの落ち着きを取り戻した。
「……調子に乗りすぎた……」
「しかもアイツ、金払ってねぇ」
「やられた…」
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