#6 まだ秘密
「おや、凄い顔」
一緒に帰るため、体育館近くで待っていた馨が流川の眉間のしわに気付く。
「どうかしたの?」
「……んでもねーよ」
…言えるか。
まして自分の口で。
「似合わない」発言もそうだが、自分の顔で馨の制服姿を想像された、と。
言ったところであの3人と同じ反応をするに違いない。
…言えるわけがない。
「……?無理して聞かないけど……?」
覗き込む顔は不思議そうだ。
「?????」
自転車置き場で通学用自転車を用意する。
馨を後ろに乗っけて行くつもりだったが、「せっかくだから歩いて帰ろう」と言うので、自転車を押して帰ることにした。
自転車を挟んで、並んで歩く。
柔らかな風が気持ちいい。
風で微かに揺れる髪が心地よく感じる。
隣を歩く馨を見ると「あの時」の表情は微塵もない。
風を受けて気持ちよさそうにしている。
今、ここであれこれ聞き出すのは酷だろうか。
でもアメリカで何かあったのは確かだ。
2年前、アメリカに行ったきっかけを作った出来事に拍車をかけるような事が……?
気になる……
聞き出したいが……
「…どうしたの?」
「!!」
少し微笑んで顔を見られる。
つい、考えこんでしまった。
「何か考えてたでしょ」
「………」
……見透かされた。
自信ありげな顔。
いつもの、知っている表情だ。
「………別に…」
「変なの」
馨はふふっと笑って風を受ける。
馨は話し続けた。
湘北は凄いチームだと。
宮城のスピード、三井のバスケセンス、桜木のセンターとしての素質。
将来が楽しみなチームだと。
「楓も……」
「……なに」
「楓も、上手くなったね」
「たりめーだろ」
自分は日本一の高校生になるのだ。
当然だ。
「何かあったね?」
馨が意地悪く笑う。
「まだ秘密」
「何?教えてよ」
「…ヤダ」
「…ケチ」
「何とでも言え」
…時間はある。
これからまた同じ家で暮らす。
学校も同じ。
話を聞く時間は沢山ある。
この、自信に満ちた笑顔の、いつも通りの今の馨に…、今、聞くのはよそう。
聞かない代わりにこちらも何があったか話さないでおく。
小さな仕返し。
「そう?ま、ゆっくり話しようね」
「……ん」
そう、ゆっくり話をすればいい。
…時間はあるのだから。
To be continues
09.08.20