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#5 違和感

練習試合は残り10分。

一同センターサークルに集まる。

ジャンプボールは角田と桜木。

桜木は久々の試合でワクワクしている。

審判を務める桑田がボールを持ってサークルの中央に立つ。


「それでは、はじめます!」


桜木と角田が視線を交差させる中、ボールが高く上がる。


「ふぬっっ!」


ジャンプボールは桜木が制した。

…が、

ボールは誰もいない所へ飛んで行った。


「バカヤロウ!誰もいないところにやってどーすんだ!」


三井がボールを追いかけながら桜木を怒鳴る。


「……あれ?」


桜木は首をかしげて右手のひらを見る。

まだ勘が戻らない様子だ。

すぐさまボールに反応して走っていたのは馨。

そしてボールを最初に手にしたのも馨だった。

すぐに宮城がマークに入り、馨の正面に構える。


(宮城さん……!やっぱり速い…!)

(…速いじゃねーかよ…流石だな)


宮城、168センチ。馨165センチ。

相手としては申し分ない。

両手でボールを持ち、馨は目を動かさないように視界に入る三井を確認した後、意識を宮城に集中させる。

馨の目線が自分に集中した事を感じ取り、宮城は「何か」を察知する。


(………くる!)


ダムッ!!!


宮城の読みどおり、馨は一気に抜きにかかる。

二人が同時に走りだす。

速さは互角。

ぴったりと並行して走る。


ダムッ!!!


急にドリブルする手を右から左に変え、視線を一瞬外に向ける。

宮城、思わず反応してしまう。


(三井サンにパス!?)


…が、それはフェイクだった。

宮城が反応した瞬間、ボールを右手に戻し、右に回り込む。


「リョータを抜いたわ!!!」

「…くそっ!!」


抜いた瞬間流川がチェックに入る。


「ミスマッチ!!」


(楓…!!)

(…馨…こい!!)


明らかにミスマッチだったが、誰しも期待した。

…流川と馨の1対1。

馨はスピードを緩める事無く流川に突っ込んでいく。


「!!!!」


桜木も思わず注目してしまう。


(くるか???)


皆が期待した矢先…


フリーになった三井にボールが渡った。


「…なに……!!」


油断した流川が視線を三井に移した時に、既に三井はボールを受け取り、シュート態勢に入っていた。


ザシュ!!!


ボールはリングに当たることなく吸い込まれていった。


「ナイスパス!」

「ナイスシュート」

「………」


お互いの手のひらを軽く叩く三井と馨の姿を流川は黙って見ていた。


「あぁ…流川くんと勝負するかと思ったのに…」


晴子が少し残念そうにしながら得点表をめくる。

その横で彩子が続ける。


「三井先輩をマークしていた流川のディフェンスが空いた瞬間にパスしてきた。判断としてはいいかもね」


木暮と赤木がお互いの顔を見ないまま呟きに近い声で会話をする。


「宮城と互角に走れるとはすごいな」

「あぁ。ドリブルがうまいな。基礎をしっかりやってる証拠だな」


赤木の言う通り、馨のドリブルは上手かった。

突出した技術を持っている「上手さ」ではなく、「基本」がしっかりしている「上手さ」

「基本がしっかりしているからこそのボールさばき」だった。


「おもしれぇ…」


宮城が不敵な笑みを浮かべながら拳に力を入れていた。



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