#23 Reset me
流川のレイアップが決まったのを見届けると、赤木は一人言を言うように話し始めた。
「バスケを始めた時から相手をしているだけあって、流川も容赦ないな。手加減なしだ。
まぁ、流川の場合、どんな相手であろうと手加減はしないがな…それでも、そんな流川と対等に相手をしている…流石だな」
馨のプレイは練習試合で一度見ているが、流川との1on1は僅かな時間であった為、今回じっくりと観戦することができている。
フロアでは馨がボールを手にし、ドリブルを開始していた。
時折、抜く素振りを見せながら流川の様子を伺っている。
『絶対に譲らない』
二人からはそんな気迫が伝わってくる。
…が。
「宮城、この1on1、どう思う」
「……!」
赤木は初めて宮城と目を合わせる。
引退したとはいえ、元キャプテンとしての存在感は健在で、キャプテンを越えて指導者さながらのような威圧感さえある赤木の視線。
赤木の存在はつい最近まで毎日の様に感じていたが、久し振りの様な感覚になっていた。
それ故にどこかその視線に怖さを感じ、宮城の中に緊張が走った。
「この1on1、お前はどう見える?」
「そうっスね……『速くて上手い。あと、外もある』流川はそう言ってたけど……その通りだな」
馨が初めて湘北の体育館に顔を出した時、流川は宮城達にそう説明していた。
「ダンナの言う通り、流川と対等のスピードでやりあってる。力では流石に押し負けちゃぁいるが、それでも上手く隙を見つけてる。あの身長差でよくやるよ…
流川も流川で本気だもんな…
2年一緒にプレイしてなくても、互いの手の内はわかってるって感じだな」
「お前の速さにもついていってたしな」
「ま、そうっスね。俺もあのコの相手してビックリしたし」
宮城は「速さに関しては本当は認めたくないんだけど…」と付け加えたいところをグッと心の中に留めておく。
馨が自分のスピードについてきていたのは事実であるし、感心したのも事実。
「コイツ、やるな」と認めてはいるものの、今まで自分の速さに絶対の自信を持っていた宮城にとって、そのプライドがちょっとだけ邪魔をしていた。
……意地っ張りな感情だということは承知なのだが。
だから口に出すのは何だか悔しいし、愚痴っぽくなってしまうような気がして嫌だったからだ。
赤木は次に桜木に視線を移す。
「桜木、お前は?」
「む……俺か?」
「……お前は細かい事は言わんでいい。判る範囲でいいぞ」
「ふぬ…っ。バカにすんなよゴリ。ちゃんと見てる」
「ほう……よし、何か言ってみろ」
流川のプレイを見るなど桜木にとって嫌な時間でも何物でもないのでは、と赤木は思っていた。
しかし自分が想像する以上にプレイを真剣に見ていた姿勢に感心すると共に微笑ましい気持ちになっていた。
少しは大人になったのか、プレイヤーとして成長を見せたのか…それがとても嬉しかった。
「俺は馨さんを応援してる。馨さんがルカワをやっつけてくれればヤツのプライドが傷つくだろうからな」
「は?」
「自分より小さい相手に負けるなんて見ものだからな」
「……」
流川嫌いを全面に出した相変わらずの桜木の発言に赤木は冷ややかな視線を送ることしか出来なかった。
はぁぁぁぁ……と大きなため息を吐き、諌めようと口を開きかける。
「待てよゴリ、話は終わってねぇ」
桜木にピシャリと言われ、出かけた言葉を飲み込む。
「馨さんがどう叩きのめすか、ずっと見てたんだが……何だか変な感じがすんだよな。ルカワのヤロウはいつも通りなんだが……馨さんは、そうだなぁ……
よくわからんが、ちょっと違う気がする……」
桜木が組んでいた腕を解き、どこかむず痒いような表情で頬をかきながら言う。
「もっと、「できる」んじゃねぇかなって……」
桜木のこの言葉に宮城がピクリと反応する。
「花道でさえそう思うんなら、俺の勘違いじゃなさそうだな。俺も花道の意見と一緒。……すっげー不本意だけど」
「不本意とはどういう意味っ……むぐぐっ」
少し大きな声になった桜木の口を、赤木はその大きな手で顔ごと遮り、押し退け、桜木を見下ろすようにチラリと見る。
「そうか、お前も一緒か。……非っっ常に不本意だがな」
「むぐ!もごもご!!(この!ゴリまで!)」
桜木の抗議を手で押さえたまま、赤木はフロアにいる流川と馨を見つめる。
「俺達でさえそう思ってるんだ。本人達だって判ってるはずだ」
フロアでは馨が流川の脇をすり抜けたところだった。
「お兄ちゃん、何を言っているの?」
晴子が兄である赤木の隣に駆け寄り、少し不安げに見上げる。
チラリと晴子を見た後、直ぐ様フロアに視線を戻す。
赤木は馨の放ったボールの行く末を追っていた。
ドリブル直後のジャンプシュートは綺麗なフォームであった。
「……実力を出しきれてないって事だ」
赤木は少しだけ眉間にシワを寄せる。
流川から僅かな距離を作って放たれたシュートはリングに嫌われ、ガン!という音を立てた後、フロアに落ちていった。
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