#23 Reset me

流川の最初のシュートはリングに当たることなく綺麗に決まった。

リングをくぐったボールは、ゴール下で見ていた宮城と彩子の元へと転がっていき、宮城がそれを拾う。

ボールの行き先を目で追った流川と馨は、この時ようやく自分達を囲むギャラリーの存在に気が付いた。

既に個人練習を始める時間となっている事にも気付き、1on1の続きをしてよいものか躊躇う素振りを一瞬見せる。

宮城が拾ったボールを一度つくと、一同の視線が彼に集まった。


「気にすんな。やれよ、続き」


そう言って宮城はボールをゆっくり放る様に投げ、ボールは流川の手元に収まった。


「その代わり、しっかり見学させてもらうぜ」


隣にいる彩子が「リョータ…」と小さく呟いた。

いつもならこのタイミングで一人猛抗議をする桜木が出てくるところだが、今日は何も言わず壁にもたれ掛かったまま腕を組んでいる。

黙っている代わりに、鋭い視線が流川へと向けられていた。

桜木の視線に気づいた流川と目が合うが、それでも何も言わなかった。

無言を貫く姿に、晴子は先程の桜木の『口出しは無用』という言葉が頭をよぎった。


(桜木君も、見たいの?流川くんの1on1
…)


普段なら他の人物を遮ってでも自分のプレイを見せたがる彼が、じっと見守る姿勢を貫いている。

気のせいか、隣にいる桜木の姿が一段と大きく見えた。

胸の前で祈るように握りしめた両手に、ギュッと力が入ると同時に晴子は胸がドキドキするのを感じていた。


宮城による1on1続行の許可と桜木の無言の了承に、他の部員達も反対する者はいなかった。

むしろ、「見たい」と賛同していたので、誰も何も言わなかった。

皆に見られているという緊張の中、1on1は続行された。


「1球交代な」


流川はそう言って馨にボールをパスする。

馨はボールを受け取ると、無言で頷いた。

腰を落とし、ボールを低く構える。

体育館にいる全員の視線が馨に向けられる。

流川相手にどんなプレイをするのか、どんな動きを見せてくれるのか…という興味が沸いてくる。

一瞬睨み合った後、馨は少し腰をあげ、ドリブルを開始する。

ゆっくり移動しながら左右交互にボールを動かし、時折抜く素振りを仕掛けてみせる。

流川もまた、その動きに反応するも、「まだ抜いてこない」と判断して、大きなアクションは起こさない。

お互い様子見の状態。

馨がレッグスルーを1回した直後、ドリブルの速度が一気に上がる。

小さく左右にボールを動かし、それと同時に体の動きの揺さぶりも大きくなっていく。

少しでも隙があれば抜いてくる動き。


(仕掛けてくる…!)


左右の揺さぶりにかかったら最後、馨はきっと抜いてくる、瞬時に判断した流川は警戒のレベルを一気に上げる。

少しずつゴール下へと距離を詰めていく二人に、見ている側も「いつ抜いてくるか」と気持ちが高ぶってくる。

その時、馨が流川の左側から抜こうと左手に強くボールをレッグスルーでドリブルする。


(…くる!)


流川は抜かせまいと反応し、進路を塞ぐ。


キュッ!!!


どちらのものかわからないバッシュがフロアを鋭く鳴らす。

その音の直後、馨は右手にボールをドリブルで移すのと同時に一歩下がる。

僅かな距離が生まれ、下がった勢いのままジャンプシュート。

フェイダウェイに近いシュートだ。


「打った!!!」


思わずギャラリーから声が上がる。

リングからやや離れた場所から打ったボールは、真上に放たれたかのように高い弧を描いた。


(高い…!)


シュートに素早く反応し、手を伸ばした流川だったが、高く放たれたボールには届かず、そのままボールはリングへと吸い込まれていった。

シュートが決まったのを見届けた馨は安心してフウッと息を吐く。


(よかった…入った…)


ギャラリーからも思わず「おお…」と感嘆の声が漏れてくる。

その後、二人の攻防は続いた。

互いにシュートは時折外すものの、負けじとボールをリングに潜らせていく。

自分より小さくパワーがない相手に対しても容赦なくぶつかっていく流川。

自分より遥かに大きくパワーのある相手から隙を作ってシュートを放つ馨。

スピードは互角。

高さとパワーでは俄然有利な流川に対し、小さいゆえ、小回りが効く馨。

自分の持ち味を存分に生かした1on1だった。


「見事なもんだな」


フロア内に入って来た赤木が宮城に話しかける。

近くにいた桜木も突然の赤木の登場に驚く。


「…ダンナ!」

「…ゴリ!」


二人が赤木の元へ顔を向けるが、赤木はフロアから目を反らさず、「これ以上喋るな」と言わんばかりに片手を軽く上げる。


「いいからフロアを見てろ」


言われて二人は再びフロアへと視線を戻す。

フロアでは流川が馨を抜き、レイアップを決めていた。


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