#23 Reset me
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湘北高校、図書館。
静かな室内に差し込んでいた太陽の光が、穏やかなオレンジ色に変わってきた。
窓から入る風の温度も昼間と比べるとだいぶ下がり、揺れるカーテンが涼しさを感じさせた。
熱心に問題集に取り掛かっていた木暮は、走らせていたペンの手を止め、時計を見上げる。
「もうこんな時間か…そろそろ帰ろうか赤木」
木暮の正面の席で参考書をめくっていた赤木も、時計の時間を確かめる。
「そうだな。こっちの勉強に付き合ってもらって悪かったな」
「いや、それは俺のセリフだよ。やっぱりお前がいると気合いが入るよ」
大学入試を受ける赤木と木暮は、時々学校の図書室で勉強をしていた。
勉学に対するモチベーションを上げる為だ。
家で一人でいると、どうしても集中力が切れてしまって、問題を解く手が止まってしまう。
きっかけは木暮の提案からだった。
『赤木が目の前にいると試合の時みたいに気が引き締まるから』
その言葉でお互い誘い合っては勉強会を行っていた。
中学の時からの戦友である二人。
真剣に勉強をする姿を見て、気持ちが引き締まらない訳がなく。
最初は「何をたわけた事を」と思っていた赤木も、木暮の提案通り、木暮が熱心に勉強する姿を見て「自分も負けてられないな」という気持ちに駆り立てられていった。
持つべきものは判り会える友達だな、と赤木は思う。
「赤木、これからちょっと寄りたい所があるんだけど付き合ってくれないか?」
鞄にノートをしまう木暮に、赤木は一つ返事でOKした。
帰りに書店や文房具店に立ち寄るのかとばかり思っていたが、予想に反し木暮の目的地は目と鼻の先にある体育館だった。
「これはどういう事だ」と睨み付けるも、「途中からわかってたくせに着いてきてるじゃないか」とニッコリ笑顔でトドメを刺され、何も反論出来なかった。
このまま引き返してもよかったのだが、何故か足が動かず、視線も体育館から反らす事ができなかった。
ずっとバスケをして過ごしていた日々から一転して勉強に励む日々。
かつてのように大声を挙げる事もなくなった。
日課にしている家での筋トレは続けてしたが、それだけでは心身共に満足しなかった。
フロア、リング、ボール、バッシュ…
それらの感触がないのは、どうしても物悲しくて仕方がなかった。
表面では「自分はあの場所に行くべきではない」と周囲に漏らしていたが、心の奥底では「戻りたい」と思っていた。
バスケットから離れる事はこんなにも歯痒く苦しいものだったとは…
「俺もまだまだ精進が足りんな…」
自分にはバスケットが不可欠なんだと思いつつ、こんなにも未練がましい人間だと思い知らされ、赤木はフッと笑った。
「何か言ったか?」
先を歩いていた木暮が気づいて振り向いた。
木暮は自分の気持ちを見透かしていたのだろうか…
昔から自分の心に刺さる事を知って知らずか平気で言ってきたコイツなら、自分のバスケへの思いを理解して体育館に誘導してきたのかもしれない。
木暮というヤツはそういうヤツだ…
「…いや、何でもない。さぁ、久し振りにアイツらの顔でも見てやるか」
赤木は木暮を追い越し、ズンズンと先に進んでいき、木暮との距離を広げていく。
張り切って歩くその速さは、体育館に行きたい思いの強さがありありと現れていた。
「なんだよ、やっぱり行きたかったんじゃないか」
赤木に聞こえないように呟くと、木暮は小走りで後を追いかけた。
体育館の前まで来ると二人は同時に違和感を感じた。
聞こえてくるはずの音が聞こえてこない。
休憩中か?と思って入り口から中を覗き込むと、息を飲みながらフロアを見つめる部員達がいた。
何事かとその視線の先に目をやると、緊迫した面持ちで対峙する流川と馨がいた。
入り口で桜木軍団の面々も固まったままフロアを見ていた中、水戸洋平が二人の気配に気づいた。
「ゴリ…それにメガネくん」
「何が起こってるんだ?」
「いや、わからねぇんだ。気づいたらこうなってて…」
大きな声にならないように話す水戸の後ろで、フロアの二人に動きがあった。
「1on1、か…」
赤木が呟くと同時に二人のバッシュがフロアを鳴らした。
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湘北高校、図書館。
静かな室内に差し込んでいた太陽の光が、穏やかなオレンジ色に変わってきた。
窓から入る風の温度も昼間と比べるとだいぶ下がり、揺れるカーテンが涼しさを感じさせた。
熱心に問題集に取り掛かっていた木暮は、走らせていたペンの手を止め、時計を見上げる。
「もうこんな時間か…そろそろ帰ろうか赤木」
木暮の正面の席で参考書をめくっていた赤木も、時計の時間を確かめる。
「そうだな。こっちの勉強に付き合ってもらって悪かったな」
「いや、それは俺のセリフだよ。やっぱりお前がいると気合いが入るよ」
大学入試を受ける赤木と木暮は、時々学校の図書室で勉強をしていた。
勉学に対するモチベーションを上げる為だ。
家で一人でいると、どうしても集中力が切れてしまって、問題を解く手が止まってしまう。
きっかけは木暮の提案からだった。
『赤木が目の前にいると試合の時みたいに気が引き締まるから』
その言葉でお互い誘い合っては勉強会を行っていた。
中学の時からの戦友である二人。
真剣に勉強をする姿を見て、気持ちが引き締まらない訳がなく。
最初は「何をたわけた事を」と思っていた赤木も、木暮の提案通り、木暮が熱心に勉強する姿を見て「自分も負けてられないな」という気持ちに駆り立てられていった。
持つべきものは判り会える友達だな、と赤木は思う。
「赤木、これからちょっと寄りたい所があるんだけど付き合ってくれないか?」
鞄にノートをしまう木暮に、赤木は一つ返事でOKした。
帰りに書店や文房具店に立ち寄るのかとばかり思っていたが、予想に反し木暮の目的地は目と鼻の先にある体育館だった。
「これはどういう事だ」と睨み付けるも、「途中からわかってたくせに着いてきてるじゃないか」とニッコリ笑顔でトドメを刺され、何も反論出来なかった。
このまま引き返してもよかったのだが、何故か足が動かず、視線も体育館から反らす事ができなかった。
ずっとバスケをして過ごしていた日々から一転して勉強に励む日々。
かつてのように大声を挙げる事もなくなった。
日課にしている家での筋トレは続けてしたが、それだけでは心身共に満足しなかった。
フロア、リング、ボール、バッシュ…
それらの感触がないのは、どうしても物悲しくて仕方がなかった。
表面では「自分はあの場所に行くべきではない」と周囲に漏らしていたが、心の奥底では「戻りたい」と思っていた。
バスケットから離れる事はこんなにも歯痒く苦しいものだったとは…
「俺もまだまだ精進が足りんな…」
自分にはバスケットが不可欠なんだと思いつつ、こんなにも未練がましい人間だと思い知らされ、赤木はフッと笑った。
「何か言ったか?」
先を歩いていた木暮が気づいて振り向いた。
木暮は自分の気持ちを見透かしていたのだろうか…
昔から自分の心に刺さる事を知って知らずか平気で言ってきたコイツなら、自分のバスケへの思いを理解して体育館に誘導してきたのかもしれない。
木暮というヤツはそういうヤツだ…
「…いや、何でもない。さぁ、久し振りにアイツらの顔でも見てやるか」
赤木は木暮を追い越し、ズンズンと先に進んでいき、木暮との距離を広げていく。
張り切って歩くその速さは、体育館に行きたい思いの強さがありありと現れていた。
「なんだよ、やっぱり行きたかったんじゃないか」
赤木に聞こえないように呟くと、木暮は小走りで後を追いかけた。
体育館の前まで来ると二人は同時に違和感を感じた。
聞こえてくるはずの音が聞こえてこない。
休憩中か?と思って入り口から中を覗き込むと、息を飲みながらフロアを見つめる部員達がいた。
何事かとその視線の先に目をやると、緊迫した面持ちで対峙する流川と馨がいた。
入り口で桜木軍団の面々も固まったままフロアを見ていた中、水戸洋平が二人の気配に気づいた。
「ゴリ…それにメガネくん」
「何が起こってるんだ?」
「いや、わからねぇんだ。気づいたらこうなってて…」
大きな声にならないように話す水戸の後ろで、フロアの二人に動きがあった。
「1on1、か…」
赤木が呟くと同時に二人のバッシュがフロアを鳴らした。
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