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#23 Reset me

流川が人の気配を感じて振り返ると、そこに馨が立っていた。

ボールを差し出した馨の視線の鋭さに一瞬だったが体が硬直したように感じた。

目を奪われた、とも言っていいだろうか。

自分を見つめるその瞳は炎を宿したようだった。

激しく燃え盛るような火ではない。

真っ黒な炭が赤く色づき、静かにジワジワと燃えるような瞳。

自然と、引き付けられる。

目を反らすことができない。

この目はどこかで見た覚えがある、と流川が少し考えたのち、すぐに答えは導き出された。

試合前に自分の姿を鏡で見た時の、あの目だった。

外には出さないが、内に秘めた炎。

燃えるものがあれば一気に着火し、燃え上がらんとする火種。

抑えに抑えたその火種は、試合という起爆剤に触れると一気に爆発する。

そんな自分の目と同じだった。

流川は少し瞳に力を入れ、若干見開いた後、その力を緩める。


「1on1……勝負、か?」

「うん。私、楓とバスケしたい」

「……」

「楓と一緒にバスケがしたい。…だから、勝負しよう」


『その人とバスケをしたいということは、勝負したいということ』


流川が後輩の水沢イチローに言った言葉。

その言葉を、馨は水沢本人から聞いた。

あの時の水沢の言葉が馨の頭の中に甦る。

--自分は関節の病気のせいで、かつてのようにプレイできない。

--でも馨はプレイできる。

--ならば流川と勝負すべきだと……






「水沢にも言ったんでしょ?同じような事。だから、私は勝負したい。楓と」

「……」


流川は差しのべられたボールをそっと受け取った。

この流川の動作の意味するところは、それだけで馨に伝わった。

流川も馨に伝わると判っていた。

伝わっていると判っていても、流川は自分の意思を馨へ口頭で伝える。

馨は自分の意思を真っ正面から伝えてきた。

それに対して無言で応えるだけでは足りなかった。

だから、自分も……

これは応えなければならない「言葉」だ。


「わかった。馨、勝負だ」


水沢に言ったあの言葉が馨の口から出てくるとは思わなかった流川は表情すら変えなかったが、心臓は高鳴っていた。

こういう感情を高揚感、というのだろうか。

自分も同じ言葉を繰り返し繰り返し想ってきた。

馨に「勝負しろ」と持ちかけた時から。


『俺とバスケをしたいってのは、勝負したいってんじゃねぇのか』


水沢に言った言葉が自分の頭の中に再び浮かんでくる。

同じ言葉を馨の口から発せられ、同じ意味で捉えていたという事に、嬉しい、という気持ちが溢れてくる。



俺とバスケをしたいということは、俺と勝負したいということ。


勝負したいということは…


俺とバスケをしたいということ……


馨も「勝負したい」とはっきり言った。


一緒にバスケをしたい、ということなのだ。


自分も馨とバスケがしたい。


だから、「勝負」するのだ。


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