#23 Reset me
今日の練習は体力作りのダッシュから始まり、パス練習やオフェンスとディフェンスの練習としての2対2を行った。
2階のギャラリーには流川目当ての女子生徒の集団が我先にと陣取っていた。
基礎練習を行っていたうちは熱い視線を送るだけだった彼女達だが、2対2が始まり流川にボールが渡った時は今まで押さえていた感情を発散させるかのように大盛り上がりだった。
「近くにいるのはたまったもんじゃない」と、同じくギャラリーにいた水戸達は彼女らから距離を置こうと反対側の位置に避難したが、黄色い声援を真正面から受ける形になり、余計に五月蝿さを感じる事になってしまった。
フロアにいた桜木は堪えきれずに怒号を浴びせるが却って彼女達の怒りを買う事になってしまい、馨も静かに睨み付けるが、それは彼女達にとっては「ご褒美」のようなもので「目が合った」と声援が甲高くなるだけであった。
そんな彼女達も時間の経過と共に数は減っていき、チーム練習が終わる頃にはギャラリーで見ているのは水戸達だけとなっていた。
外は既に薄暗くなっている。
親衛隊がいた場所を大楠は耳を擦りながら恨めしそうに眺める。
「今日も威勢よかったな、親衛隊の奴らは。お陰で耳がキンキンしやがる」
声援が上がるたびに鼓膜に鋭い刺激が走り、その度に耳を塞いでいた。
フロアにいるバスケ部の面々はこれから自主練の時間。
残って練習をする者は彩子にその申請をしている。
何人残るかという一応の確認の為の申請なのだが、毎日ほぼ全員が残るので、正直確認はいらないんじゃないかと彩子は思う。
しかし、生き生きとしながら「今日も自主練します」と言う部員達の顔を見ると、「自分も気合いを入れなきゃ」という活力が湧いてくるので満更ではなかった。
今日も全員が自主練に残るという快挙に、彩子は誇らしい気持ちになる。
休憩しつつも、体が冷えないよう、皆軽くストレッチを行っている。
そんな中、念入りにストレッチをしている馨の姿が目に止まった。
普段から桜木と一緒に自分も基礎練習をしていた馨。
宮城に「今日も全員自主練参加」の報告をしに行きながら、あのコも桜木花道相手に気合い入ってるな、と微笑む。
…彩子がこの考えは少し違っていたと判るのはその直後だった。
馨はストレッチを終えた後、ボールを持って桜木の元へと向かって行く。
晴子と談笑をしていた桜木だったが、すぐにその存在に気付き、「よぉし!」と意気込む。
「さぁ!お次はシュート練習ですか?この桜木、まだまだ気合いと体力は十分!!」
晴子の目の前という相乗作用もあり、桜木のテンションは上がりに上がっていた。
「ごめん花道、自主練は他の人に見てもらって。今日は私、やりたい事があるから」
高揚する桜木とは逆に、馨から感じられる雰囲気は波一つ立っていない湖のように静かだった。
表情と眼差しは冷静でありながら、僅かながらピリピリとした緊張感が走っていた。
馨から感じられる空気感に桜木の熱が少し下がる。
「やりたい事…ですか?」
「うん。今日はアイツと一緒にバスケやるって決めたから」
「……?」
「もう、逃げたくないからね」
「……」
直接、馨の口から名前は出なかったが、「逃げたくない」という言葉から昨日の部活帰りの事を思い出す。
『逃げてるんだ…アイツから…変わろうと思っても、何一つ変わってない』
馨から率直な事は聞いていなかったが、その言葉から推測するに相手は誰なのか、すぐに判った。
彼女が「アイツ」と呼ぶ人物といったら一人しかない。
…流川楓だ。
桜木の返事を聞かぬまま、馨は背を向けてその場を離れていった。
流川がその気配を背後から感じたのは荒くなった呼吸が落ち着き、体から発する熱が収まってきた時だった。
振り返ると真剣な眼差しで立っている馨がいた。
「楓、1on1、やろうよ」
目の前に立つ馨はボールを流川に向けて差し出した。
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2階のギャラリーには流川目当ての女子生徒の集団が我先にと陣取っていた。
基礎練習を行っていたうちは熱い視線を送るだけだった彼女達だが、2対2が始まり流川にボールが渡った時は今まで押さえていた感情を発散させるかのように大盛り上がりだった。
「近くにいるのはたまったもんじゃない」と、同じくギャラリーにいた水戸達は彼女らから距離を置こうと反対側の位置に避難したが、黄色い声援を真正面から受ける形になり、余計に五月蝿さを感じる事になってしまった。
フロアにいた桜木は堪えきれずに怒号を浴びせるが却って彼女達の怒りを買う事になってしまい、馨も静かに睨み付けるが、それは彼女達にとっては「ご褒美」のようなもので「目が合った」と声援が甲高くなるだけであった。
そんな彼女達も時間の経過と共に数は減っていき、チーム練習が終わる頃にはギャラリーで見ているのは水戸達だけとなっていた。
外は既に薄暗くなっている。
親衛隊がいた場所を大楠は耳を擦りながら恨めしそうに眺める。
「今日も威勢よかったな、親衛隊の奴らは。お陰で耳がキンキンしやがる」
声援が上がるたびに鼓膜に鋭い刺激が走り、その度に耳を塞いでいた。
フロアにいるバスケ部の面々はこれから自主練の時間。
残って練習をする者は彩子にその申請をしている。
何人残るかという一応の確認の為の申請なのだが、毎日ほぼ全員が残るので、正直確認はいらないんじゃないかと彩子は思う。
しかし、生き生きとしながら「今日も自主練します」と言う部員達の顔を見ると、「自分も気合いを入れなきゃ」という活力が湧いてくるので満更ではなかった。
今日も全員が自主練に残るという快挙に、彩子は誇らしい気持ちになる。
休憩しつつも、体が冷えないよう、皆軽くストレッチを行っている。
そんな中、念入りにストレッチをしている馨の姿が目に止まった。
普段から桜木と一緒に自分も基礎練習をしていた馨。
宮城に「今日も全員自主練参加」の報告をしに行きながら、あのコも桜木花道相手に気合い入ってるな、と微笑む。
…彩子がこの考えは少し違っていたと判るのはその直後だった。
馨はストレッチを終えた後、ボールを持って桜木の元へと向かって行く。
晴子と談笑をしていた桜木だったが、すぐにその存在に気付き、「よぉし!」と意気込む。
「さぁ!お次はシュート練習ですか?この桜木、まだまだ気合いと体力は十分!!」
晴子の目の前という相乗作用もあり、桜木のテンションは上がりに上がっていた。
「ごめん花道、自主練は他の人に見てもらって。今日は私、やりたい事があるから」
高揚する桜木とは逆に、馨から感じられる雰囲気は波一つ立っていない湖のように静かだった。
表情と眼差しは冷静でありながら、僅かながらピリピリとした緊張感が走っていた。
馨から感じられる空気感に桜木の熱が少し下がる。
「やりたい事…ですか?」
「うん。今日はアイツと一緒にバスケやるって決めたから」
「……?」
「もう、逃げたくないからね」
「……」
直接、馨の口から名前は出なかったが、「逃げたくない」という言葉から昨日の部活帰りの事を思い出す。
『逃げてるんだ…アイツから…変わろうと思っても、何一つ変わってない』
馨から率直な事は聞いていなかったが、その言葉から推測するに相手は誰なのか、すぐに判った。
彼女が「アイツ」と呼ぶ人物といったら一人しかない。
…流川楓だ。
桜木の返事を聞かぬまま、馨は背を向けてその場を離れていった。
流川がその気配を背後から感じたのは荒くなった呼吸が落ち着き、体から発する熱が収まってきた時だった。
振り返ると真剣な眼差しで立っている馨がいた。
「楓、1on1、やろうよ」
目の前に立つ馨はボールを流川に向けて差し出した。
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