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#23 Reset me

あの日の言葉は幼い頃の何気ない言葉だったのかもしれない。

その言葉が今こうして心に響いている。

幼い頃のものとはいえ、彼と約束した事だった。

自分から言った、あの約束。

アメリカにいた時も心の奥底でそう思い、遠くにいても彼の存在を感じてた。

帰国してから山王戦を見て、改めて思ったはずだったではないか…


『この人と一緒にバスケがしたい』

『この人とずっとバスケがしたい』


と。

これからもずっと一緒にバスケができるようにと。

それを叶える為に湘北にきたというのに…なぜ、こんな大切な事を忘れていたんだろう…

一番大事で、一番支えにしていた事のはずなのに…

馨は持っているボールを優しく撫でる。

幼い頃使っていたボールはいつもこんな近くにあったのに…自分には見えていなかった。

身近にあったのに、目に入らなかった。

ずっと、ここにいたのに、目を反らしていた。

それは人の気持ちも同じなんだろうなと思う。


「どうした」

「ううん、なんでもない。ダメじゃん、大事なボールなんだから、ちゃんと置いておかなきゃ」


馨は持っていたボールを転がらないよう、そっと棚に乗せ、流川もボールが棚に運ばれて行くのを見届ける。


「悪ぃ…」

「ずっと、ここにあったんだね、気づかなかった」

「目立たない所にあったからな…何気なく見てたら、なんか懐かしくなって…」

「奇遇だね、私も丁度思い出してたんだ。あの時のボール、どこにあるのかなって」

「…そうか」


薄明かり中、流川の顔が微笑んだように見えた。

錯覚かもしれなかった。

そんな流川を見て馨もフッと微笑んだ。

二人の思考が重なるなる事はよくあったが、このボールの件でも重なるとは…

偶然にしろ、気持ち的に安心できる、有難い事だった。


「まさかここにあるとは思わなかったけどね」

「お前がよく見てなかったからだろ」

「そうだね、こんなに近くにあったのにね。何も見えてなかったね」


そう、何も見えてなかった。

一つの事に意識が集中して周りが見えてなかった。

このボールのことも、自分の気持ちのことも。


「明日は、残って練習するから」

「それ、一番最初に聞いた」

「わかってるよ。…だから、バスケ、やろうね…一緒に」


改めて口に出すのが恥ずかしいのと、今まで言えなかった事に対しての心苦しさからなのか口ごもってしまう。

でも、言葉の意味合いは深いものだった。

幼い頃の自分も言った、同じ言葉。

その時よりも思いは強かった。

流川は馨の言葉にピクリと一瞬反応するが、薄暗さの為か馨は気づかなかった。


「…わかってる」


僅かな間の後、流川が呟く。

どこまでわかっているのか馨は聞かなかった。

その返事だけで嬉しかったから。

その時、1階にいる葵からそろそろお風呂に入るよう声がかかり、馨は軽く返事をする。


「寝ようとしてたとこ、邪魔して悪かったね」


扉に向かって部屋を出て行こうとする馨に、流川は「別にいいのに」と言った後、大きな欠伸をする。

「やっぱり眠いんじゃないか」と苦笑いしながら扉のノブを握る。


「また、明日ね。おやすみ」

「…おやすみ」


オレンジ色の光の中、馨がそっと扉を閉めると部屋は再び暗さを取り戻した。

流川は馨の足音を聞いてからベッドに横になり、ゆっくりを瞳を閉じた。

五月蝿かったバイクの音はもうなく、静かな夜になっていた。

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